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「上がろうか」  湯にのぼせて再度意識を飛ばされてはつまらないから、唯人はそう叶多に告げると、軽い身体を抱き上げる。  何も言えず、されるがままになっている叶多はきっと、まだ状況を信じられずに戸惑っているに違いない。  ―― ゲームは、俺の勝ちだ。  本当は……高校を卒業したら閉じ込めようと思っていた。  孤立させ、信じられるのは唯人だけだと思い込ませ、自分一人しか見えないように全てを遮断するつもりだった。  イレギュラーな出来事続きで、多少の焦りや軌道修正はあったけど……少し時間が速まっただけで、計画自体にまだ問題はきたしていない。 「叶多……好きだよ」  腕の中で震え続ける小柄な身体を脱衣所に下ろし、バスタオルで包み込みながら笑みを浮かべてそう伝えると、信じられないといったように叶多は大きく瞳を開いた。   *** 「好きだよ」  そう言い放った唯人は綺麗な笑みを口元に浮かべてはいるが、声音から、そんな感情は微塵も感じられなかった。  それは叶多の勘違いで、もしかしたら……本当に彼はそう思っているのかもしれないが、こんなに長く一緒にいて、唯人が全て正しいのだと疑う事なく信じていたのに、これだけは……何かが違うと心の奥で警鐘が響く。 「あっ」 「嬉しくない?」  声と共に身体がフワリと抱き上げられ、そのまま唯人がドアを開けると、さっき自分が居た部屋で――大きなベッドが中央に設置されている部屋の片隅に、冷蔵庫とむき出しになった洋式の便座があるのが視界の端にチラリと映った。 「驚いて声も出ない?」  ベッドの上へと叶多を下ろした唯人は枷を足首に填め、そのまま身体を押し倒すように叶多に覆い被さってくる。 「大丈夫、ここはセキュティーも万全だから、父さんだって入れない。だから叶多は安心して、俺に全部委ねていい」 「あっ」  バスタオルがはぎ取られ、叶多が小さく声を上げると、枷がついている脚を掴んだ唯人がそれを持ち上げた。

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