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『もしもーし』 「お前、今どこにいる?」 『悠哉から電話してくるなんて珍しい……今? 謹慎中だから、大人しく寮にいるけど』 「射矢を連れて戻れ。今日中にだ」  珍しくワンコールで出た智也の様子はいつも通りで、間延びした声で返答するけれど、嘘なのはもう分かっているから悠哉は無視して言い放つ。 『やっぱりバレてた? じゃあ回りくどいやり取りは無しで答えるけど、正直それは難しい。けど、射矢の身の安全は保証する。信じられなきゃ戻ってくればいいけど、今は折角取り戻した小泉君を優先すべきじゃないかと思うよ……な、類?』 『はい……数日で戻りますので、心配は無用です』 「射矢、お前……分かった、すぐ戻る」  明らかにいつもの様子と違っている射矢の声に、悠哉は低くそう告げてから、通話を切ろうとしたけれど……続いて聞こえた射矢の言葉に再度スマホを耳へ近づけた。 『会長、私は自分の意志でここに残りました。貴方が戻って来ても一緒には帰りません。ごめんなさい、私は、ずっと……』 『はい、そこまで。悠哉、本人がこう望んでる以上、お前はどうするべきなのか……分かるよな? 俺に電話してきたってことは、大体事情は飲めてんだろ? だったら、そのまま戻れ』 「……っ」  そこで通話はプツリと途切れ、悠哉は唇を噛みしめる。  今回の計画は、指紋認証でしか開かない叶多の閉じ込められている部屋のロックを解除することが一番の難関だった。  射矢がやると言い出した時、彼の今までの行動から……その本心に薄々気づいていた悠哉は信用するか迷ったが、信じると決断したのは長い間をかけて築いた彼との絆があったから。  思惑はどうであれ、彼がずっと悠哉のことを支えてくれた事実は変わらない。 「どうする? 戻るなら早くしないと……」 「いやいい。このまま行ってくれ」  苦渋に満ちたその決断が合っているのかは分からないけれど、安全を保証すると言った智也の言葉には嘘が無いように感じられた。  そもそも、悠哉とはそりが合わないものの、智也は前会長で、生徒からは慕われていると中等部の頃耳にしている。 「んっ…ふくぅっ」  ――それに、何より今は……。 『ごめんなさい、私は、ずっと……佐野さんを……』  途切れる寸前確かに聞こえた射矢の声が、頭の中で木霊して……やるせなくなった悠哉は自分の気持ちをまるで反らすかのように、大きく息を吐き出した。

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