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 そんなことは分かっているが、投与され続けた媚薬の効果が薄れてきている今……理性が戻りかけている所に、知らない男の声が聞こえれば、もう恐怖しか感じられなくて叶多の体はガタガタ震えた。 「大丈夫だから、ちょっと顔を見せて」  耳を塞ぐ指をすり抜けて男の声が聞こえてくる。  ――逆らったら……ダメだ。 「……っ」  植え付けられた条件反射に抗う事など出来ない叶多は、視線を横に反らしながらも声の方へと顔を向けた。 「顔色、だいぶ良くなったけど……まだまだだな。寒い?」  心底心配そうに告げてくる声にゆるゆると首を振ると、「そうか」と短く呟いた彼は叶多の額に掌で触れる。 「……っ!」 「熱はもう無いようだ。いいかい小泉叶多君、君は今、須賀の家にいる。僕は……君のお父さん、小泉蓮と同級生だった長瀬一希、医師だ」 「……?」  聞こえた父の名前に思わず視線を向けたその先には、眼鏡を掛けた温厚そうな男性の姿があって、 「やっとこっちを見てくれた」 と、安堵したように微笑んだ。 「色々混乱しているようだね。僕は須賀家の主治医で、君が完全に回復するまで看るように頼まれた……って言っても、今の君には分からないかな? とりあえず何か食べ物を持ってこさせるから、それを食べてからもう一度休もうか」  とても医師には見えない程にラフな服装をしている彼は、柔和な笑みを浮かべたまま、叶多の右の手首を掴むとそのまま脈を取り始め、それを終えると携帯電話でどこかへと電話を掛ける。 「何か食べるもの持ってきて……うん、それでいい」  そう話す彼をぼんやり見ながら、食欲などまるでないから必要ないと思ったが……逆らった途端何が起こるか分からないから黙っていた。

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