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それに頷きだけで返すと、
「そうか」
と短く彼は答えたが、見詰めてくる瞳がいつもと違う空気を纏って見えたから、余計に胸がざわつきを覚え、叶多は思わず視線を逸らした。
「ここは、学園の敷地にある……俺の生家だ。今は誰も住んでないけど」
何を言おうか迷ったように視線を少し彷徨わせたあと、ベッド脇の椅子に座って悠哉は静かに話し始める。
「俺と智也……佐野って言った方が分かりやすいか……は、兄弟だけど、小学校に入るころまで俺は知らなかった。使用人の子供かなにかで、俺の遊び相手として側にいるんだと思ってた」
そこまで話した悠哉はふと立ち上がり、腕を伸ばして叶多の身体を再度ベッドへと横たわらせて、
「こんな話をしても、しょうがないな」
と戸惑ったように呟いた。
叶多はといえば今までにない彼の態度に動揺したが、未だ頭がぼんやりしていて上手く思考が繋がらない。
ただ、どういう訳か恐怖だけでは説明出来ない感情が……自分の中に芽吹いているのを感じて酷く戸惑った。
「眠いのか?」
急に瞼が重たくなって、うつらうつらとし始めると、椅子に座り直した悠哉が手を伸ばし、シーツの上から胸の辺りをトントンと軽く叩いてくる。
「……」
そんな彼に、何を伝えようとしているのか自分自身でも分からなかったが、唇を弱々しく開閉させた叶多はそのままストンと眠りに墜ちてしまい、だから自分の寝顔を見ながら、苦し気に顔を歪めた悠哉の表情を……目にする事は叶わなかった。
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