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 ―― なん……で?  優しくされる理由がない。  あの時、唯人の手を取った自分に腹を立てることはあっても、彼が一度手放した物を、取り戻そうとするような人物には思えなかった。  だから、きっともっと酷い仕打ちがこの先自分を待っているとしか思えない。  ―― だけど…… 。 『ごめんな』  叶多を助け出してくれた時、耳元でそう囁やいた声から怒気はまるで感じられず、むしろ……安堵感さえ覚えてしまった。  ―― どうして、僕は……。  何度絶望に突き落とされても、どれだけ自分を戒めても、僅かな欠片を拾い集めて、ほんの少しの希望を抱いてしまうのか?  ―― ダメだ。僕は、もっと……強くならなきゃ……いけない。  まだ続いている映像の中、まるでガラス越しのように映る自分の卑猥な姿に、叶多はとても言葉にならない哀しい気持ちに包まれながら、掌に痕が付くくらいギュッと強く拳を握りしめた。  *** 「おはよう。ご飯、食べられそう?」  次に目を覚ました時には悠哉の姿は側にはなく、代わりに一希が椅子に座ってこちらをじっと見つめていた。 「……」 「分かった。何か軽い物を用意させる」  頷くだけの返事をすると、一希は微笑み立ち上がる。そして、ドアの外へと出て行った彼は、数分後には湯気の立ち上るトレイを持って戻ってきた。 「起き上がれる?」  声に小さく頷き返し、上体だけを起こそうとするが、体がまるで鉛のように重くなっていて動けない。 「無理しないで。随分大変な目に合ったんだから、少しは甘えなさい」  穏やかな笑みを浮かべる一希は、叶多の父と雰囲気が似ていて、だからなのか、心の中に僅かな光が射した気がした。  叶多の上体だけを支えて起こしてくれた彼の腕は、細身に見えてもしっかりしていて、「あーん」とわざわざ口に出しながら、スプーンを口へ運ぶ仕草もなんだか板に付いている。

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