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「大丈夫か?」
慌てたように背中をさする悠哉の掌が温かい。
自分の知る以前の彼は、こんな行動は絶対取らない非情な人間の筈だから、叶多は酷く混乱しつつ、近い位置にある悠哉の顔を訝しむようにじっと見た。
―― これは、違う。きっと……罠だ。でも……。
だけど、そう考えようとしている叶多の心の更に奥の方で、もう一つの声がする。
もしかして、自分は何か大切な物を、見落としてはいないだろうか? ……と。
「どうしたらいいのか、今一希さんと考えてる。ゲームが終わっても、お前を自由にしたら、きっとまたアイツに掴まる。多分、親父はそれを分かってお前をここに入れた。今回のこともいつバレるか分からない。もしそうなったら……」
以前ならば抑揚無く聞こえたであろうその声に、苦悶が垣間見える気がするのは、叶多自身が彼を知ろうとしているからに他ならない。
「とりあえず、今はゆっくり休むことだけ考えればいい。何か欲しいものはあるか?」
「また余計な事を言った」と呟き話を切った悠哉へと……頷きながら『大丈夫です』と返事をしようと口を開いて、叶多は自分の身に起こっている異変に初めて気が付いた。
「……っ!」
「どうした?」
―― こえ……が。
何度出そうと試みても、全く声が音にならない。
首を傾げて尋ねてくる悠哉に説明しようにも、声が出ないからどうすればいいか分からなくなって混乱した。
「ッ!」
「おいっ!」
――ど……して?
動悸が急に速くなり、焦って声を出そうとするが、空気を吸い込み過ぎたせいで喉がヒュッと音を立て、どんどん胸が苦しくなる。
そして……ついには呼吸も出来なくなって瞳を見開き痙攣した。
「っ!……っ!」
「ちょっ……待ってろ!」
流石にかなり慌てた悠哉が、室外にいる一希を呼ぶために叶多から離れようとすると、縋るように手首の辺りをギュッと強く掴まれる。
―― 過呼吸……か?
救急の時の応急処置は心得てはいるけれど、今判断を誤るような事があっては、命取りにもなりかねないから悠哉は一瞬躊躇した。
―― でも。
迷っている時間はない。振り解くこともしたくはない。
「……済まない」
きっと聞こえてはいないだろうが、悠哉は叶多にそう囁くと、小さな顎を片手で掴んでその唇を口で塞いだ。
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