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「立てるか?」
一希と二人で話をしてから、叶多の傍には大抵悠哉がいるような形になった。
須賀家の専属医師ではあるが、それとは別に一希は医院の経営もしているらしく、そちらの状況次第では長く屋敷に留まれない日もあって、そんな時には必然的に悠哉と二人になってしまう。
最初は全く足腰が立たず、意識が戻っていない期間は、成人用のオムツを使用されていたのだと知った時には、恥ずかしくて死にそうだったが、交換は一希一人がしたと聞いて少しだけ安堵した。
「……っ」
悠哉の腕に支えられながらベッドから身体を起こし、叶多は足を床に付けると、力を込めて立ち上がる。
あれからもう数日が経っているのにも関わらず、急かすでもなく自分に付き合ってくれる悠哉の存在が……不思議な事にそれほど怖いとは思えなくなっていた。
「平気か?」
大分衰弱しているせいで、まだフラフラとよろめくけれど、それでも大分良くなってきたと今日一希が言ってくれた。
「……これじゃ、一人で入るのは無理だな」
立ち上がり、二歩三歩進んだところで、頭上から降りて来た声に……思わず悠哉を振り仰ぐと、無表情に見えるけれども眉間に皺が刻まれている。
「一希さん、戻れないって言ってたし……」
叶多を今日風呂に入れると言い出したのは一希だった。
ここに来てから体は拭かせて貰っていたけど、多分一週間くらいはまともに風呂に入れていない。
だから、叶多にとってはとても有り難い話だったし、正直凄く嬉しかった。
―― だけど。
叶多一人では無理だろうから、介助すると言い出した時、頑なに大丈夫だと叶多は彼に告げてしまった。
「……」
「ん?」
悠哉を困らせたくなかったから、『大丈夫です』と告げようして、口をパクパク動かしていると、端正な顔が近づいたから叶多は思わず後退った。
「大丈夫じゃなさそうだけど……お前、まともに歩けないのに、どうして一希さん断った?」
―― それは……。
トイレに行くにも支えが要るのに、風呂になんて入れるのかと叶多自身も思いはしたが、
『そろそろお風呂入りたいよね。今日入ろうか? サッパリするよ』
と笑顔で告げられ、入りたい気持ちが勝ってつい頷き返してしまった。
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