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「……っ!」
「髪、洗ってやるだけだから……震えるな」
彼が舌打ちをするのを今まで幾度ともなく聞いてきた。
その都度酷く苛まれたから、聞こえただけで体が勝手に震えだしてしまうけど……二人しかいないこの空間では抗う事など出来やしないし、しても無駄だと分かっているから、叶多は縁へと凭れるように頭を置いて目を閉じる。
泡に包まれているおかげで、体を晒さずに済んでいることが、今の叶多の心の中で唯一の救いと言えた。
「楽にしてろ」
首の下へと折られたタオルが差し込まれ、目を覆うようにもう一枚が瞼の上へと掛けられる。
シャワーの音が少しした後、急に髪の毛に飛沫が掛かって驚きに目を開いたけれど、動いたらきっと怒られるから叶多はぐっと掌を握った。
―― 温かい。
暫しの間固まっていたが、緊張感もどういう訳かそんなに長く続かない。
生温い湯船に浸かり、頭を洗われている内に、徐々に体の強ばりが解けて叶多は小さく吐息を漏らした。少し力は強めだったが、それもほとんど気にならない。
「痛くないか?」
そう尋ねてくる悠哉の声は、決して優しい物ではないが、だからといって以前のように恐怖を感じるものでもなかった。
『大丈夫』の形に口を動かすと、
「そうか。人の頭なんて洗ったことないから、難しいな」
と真面目に返事をしてくる声に、安堵にも似た感情が心の中に芽生えてくる。
―― 気持ち、いい……。
高級そうな石鹸の香りは、鼻につくほど強くもなく、まるでアロマかなにかのように、心と体を解きほぐした。
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