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「流すぞ」
時間を掛けて丁寧に二度叶多の頭を洗ったあと、シャワーを持って声をかけるが、僅かに開いた薄い唇は言葉を象ることをしない。
「寝たのか?」
尋ねてみても返事はないからきっと眠ってしまったのだろう。悠哉は一応脈と呼吸を確認してから、髪の毛の泡を洗い流した。
湯あたりして風邪でも引かせたら自分が一希に怒られるから、意識を無くした体を抱き上げ目元を覆うタオルを外す。
―― 仕方ない。
裸を見られたくはないだろうが、泡がついてしまった体をそのままにすると、希 に皮膚が痒くなるから、悠哉は自ら膝を折って、座らせるように叶多の体をそこへと載せて体を支えた。
これでは自分がびしょ濡れになるが、そんな事も言っていられない。
「ったく」
眉間に皺を刻んだ悠哉は低く悪態を付くけれど……怒りは全く感じておらず、一希辺りが目にしたならば、きっと「照れてる」と言うだろう。
シャワーを片手で手繰り寄せ、叶多の体を流し始めると、今まで散々見て来た筈の傷跡がとても痛々しくて、それを瞳に映した悠哉はまた小さく舌を打つ。
今までだってそれが全く気にならなかった訳じゃない。
ただ、それを尋ねても返事をしない叶多に苛立つばかりだったし、自分の父をたぶらかしている女の子供で、御園の手駒だと思っていたから、情けを掛ける理由も無いと悠哉はずっと思っていた。
何をされても悠哉を全く視界に入れようとはしない。
諦めたような表情をして、そのくせ強い拒絶の意思を瞳に湛える叶多へと、憤りに似た感情だけを最初から抱いていた。
「……っ」
「目が覚めたのか?」
不意に、腕の中にある叶多の体が強ばったから、悠哉が顔を覗き込むと、案の定……薄く瞼を開いた彼が、所在なさげに小さく頷く。
―― 抵抗はしない……か。
悠哉と二人きりだというのに、眠ってしまえる事自体……体力が相当落ちてしまっているからに違いない。
射矢からだと言われて渡されたUSBを見てしまったから、叶多の精神状態はかなり擦り切れていると分かっているが、表面的な映像だけでは本当の意味の理解とは言えず、自分のしてきた仕打ちを思えば閊 たように胸が軋んだ。
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