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「ちょっと待ってろ」
何の言葉も発さないまま叶多の体を流したあと、脱衣所に出た悠哉は叶多を大判のバスタオルで包み、再度抱き上げて備え付けてあるソファーの上へと座らせてから、もう一枚タオルを取り出し濡れた髪の毛を拭いてやる。
「こんなもんか」
正直、他人の世話などしたこと無いから、程度が全く分からなかったが、タオルを置いてそう呟くと、顔を僅かに上気させながら叶多がパクパク口を動かした。
「ん?」
幼い頃から読唇術も学んでいる悠哉だから、彼が何を言いたいのかがすぐに分かって笑みを浮かべる。
「ああ、構わない。気にするな」
それは……悠哉の着ている服が濡れたことへの謝罪だったけど、答えた途端に奇妙な顔をしたからそれが気になった。
「どうした?」
尋ねるが、それには答えず真っ赤になって首を振り、「着替えないと風邪を引く」と悠哉自身、思ってもみないような言葉を告げてくる。
まさか、自分の浮かべた笑みに驚いているなんて事は、思いも因らない悠哉だから、
「お前の着替えが済んだらするよ」
と答えて叶多の寝衣を取り出すと、「自分で出来る」と懸命に言うから、悠哉はそれを手渡した。
悠哉自身も着替えなければならないが、離れるわけにも行かないから、クロークからバスローブを取り出し、手早くそれに着替えてしまう。
支度を終えて振り返ると……自分の着替えに苦心している叶多の姿が目に入ったが、手を出しては駄目だと思い悠哉はそのまま待っていた。
***
「ほら」
どうにかパジャマを身につけると、来たときと同じように体をヒョイと悠哉に抱き上げられ、一瞬だけ体は竦むがすぐに強張りは解けてしまった。
先程目にした彼の笑顔が、脳裏から離れない。
「雨が降ってきたな」
「……」
部屋に戻るとまだ夕刻だというのに辺りは薄暗く、轟音と共に光った空に、叶多はビクリと大きく震えた。
「雷雨だから……すぐ上がる」
叶多の怯えを感じたのか……諭すような悠哉の声が頭の上から降りてきて、怖ず怖ずと顔を上へ向けると、困ったように瞳を細めた彼の顔がそこにある。
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