209 / 301

33

 ―― だけど……。  あれだけの事をされても尚、何か他に理由があっての凶行だったのではないか……と、考えてしまう自分がいる。  そうでなければ、これまで信じた全てを失う事になりそうで。  ―― 僕が……悪いのかな。  唯人の父から受けた仕打ちも同時に脳裏を掠めてしまい、たった今朱く染まった顔からサァッと血の気が引いていく。 「どうした?」  丁度その時、重く沈み込もうとしている叶多の思考を遮るように、凛とした声が鼓膜を揺らし、一希の物では無いその声に驚いた叶多が顔を上げると、いつの間にかトレイを手にした悠哉が側に立っていた。 「飯、テーブルで食べられそうか?」  多分かなり呆気にとられた表情をしていたのだろう。 「そんなに珍しいか?」 と笑った悠哉の姿を瞳に映し、他に返事のしようもないから叶多はコクリと頷き返す。  常日頃から大人びていると思ってはいたが、細身のスーツを纏った悠哉は、制服姿の彼より更に大人に見えた。 「おかしな奴だな」  そんな叶多を喉で笑った悠哉は窓際へと歩き、そこに置かれたテーブルの上へトレイを置くと、すぐにこちらへと踵を返し、叶多を抱きあげようとする。 「ん? ……そうか」 『大丈夫、歩けるから』と、そんな悠哉へ必死に告げると、すぐに唇を読みとった彼は叶多の身体を支えてくれた。  ゆっくり歩いて椅子に座ると、向かい側へと座った悠哉がスプーンを掴みスープを掬う。 「夕方には帰るから」  断りづらい雰囲気に、出されたスープを一口啜ると、そう言葉を紡いだ彼が指先で叶多の唇を拭う。 「……っ」 「あ……ごめん」  自分のとってしまった行動にハッとしたように手を引くと、窓の外へと視線を移して悠哉はポツリと呟いた。  ―― 謝らなくて、いいのに。  刹那叶多の頭の中に、自然と浮かんできた言葉。  唇も動いてしまっていたが、悠哉はこちらを向いていないからそれが伝わることはない。  ―― 僕は……今、何を?  なぜそんな風に思えたのかと自問自答を始めるが……再度こちらを向いた悠哉が、今度はパンを指で千切って口許へと運んでくるから、ひとまずはそれを食べることだけに集中することにした。

ともだちにシェアしよう!