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―― だけど……。
あれだけの事をされても尚、何か他に理由があっての凶行だったのではないか……と、考えてしまう自分がいる。
そうでなければ、これまで信じた全てを失う事になりそうで。
―― 僕が……悪いのかな。
唯人の父から受けた仕打ちも同時に脳裏を掠めてしまい、たった今朱く染まった顔からサァッと血の気が引いていく。
「どうした?」
丁度その時、重く沈み込もうとしている叶多の思考を遮るように、凛とした声が鼓膜を揺らし、一希の物では無いその声に驚いた叶多が顔を上げると、いつの間にかトレイを手にした悠哉が側に立っていた。
「飯、テーブルで食べられそうか?」
多分かなり呆気にとられた表情をしていたのだろう。
「そんなに珍しいか?」
と笑った悠哉の姿を瞳に映し、他に返事のしようもないから叶多はコクリと頷き返す。
常日頃から大人びていると思ってはいたが、細身のスーツを纏った悠哉は、制服姿の彼より更に大人に見えた。
「おかしな奴だな」
そんな叶多を喉で笑った悠哉は窓際へと歩き、そこに置かれたテーブルの上へトレイを置くと、すぐにこちらへと踵を返し、叶多を抱きあげようとする。
「ん? ……そうか」
『大丈夫、歩けるから』と、そんな悠哉へ必死に告げると、すぐに唇を読みとった彼は叶多の身体を支えてくれた。
ゆっくり歩いて椅子に座ると、向かい側へと座った悠哉がスプーンを掴みスープを掬う。
「夕方には帰るから」
断りづらい雰囲気に、出されたスープを一口啜ると、そう言葉を紡いだ彼が指先で叶多の唇を拭う。
「……っ」
「あ……ごめん」
自分のとってしまった行動にハッとしたように手を引くと、窓の外へと視線を移して悠哉はポツリと呟いた。
―― 謝らなくて、いいのに。
刹那叶多の頭の中に、自然と浮かんできた言葉。
唇も動いてしまっていたが、悠哉はこちらを向いていないからそれが伝わることはない。
―― 僕は……今、何を?
なぜそんな風に思えたのかと自問自答を始めるが……再度こちらを向いた悠哉が、今度はパンを指で千切って口許へと運んでくるから、ひとまずはそれを食べることだけに集中することにした。
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