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―― でも、彼は……。
「叶多君、どうしたの? 顔、青いけど」
「……っ!」
いつのまにか側まで来ていた一希の姿に驚いて、無理矢理笑みを作ろうとすると、
「そういうのはいいから」
と、彼に頭を撫でられる。
「また悠哉に何かされた?」
困ったようにそう告げられて、叶多は首を横へと振った。嫌なことはされていない。
「じゃあ、もしかして、戸惑ってる? 悠哉が優しいから」
「っ!」
見透かしたような一希の言葉に思わず瞳を見開くと、
「図星だね」
と笑った彼が、前の椅子へと腰を下ろした。
「悠哉は……良くも悪くも真面目過ぎるんだ。本人はそうとは認めないけどね。気質もあるんだろうけど、小さい頃から特別扱いされてたから、常に自分が正しいと思っている」
―― 真面目……なのかもしれない。
多分、絶対的に自分を正しいと思える人じゃなかったら、初対面の叶多にあれほどの糾弾を浴びせられやしない。
最初悠哉に会った時、心の底から叶多と母を蔑 んでいる様子だった。
「だから、俺も長い付き合いだけど、悠哉の謝罪なんかほとんど聞いたことない。今回はハッキリ自分が悪いって分かってるんだろうけど、初めての事でどうすればいいか分かんないんじゃないかな。あれでもきっと反省してると思うよ……まあ、何を言ってもやった事は消せないけど」
―― 謝った事が……ない?
「悠哉にしてみれば、罪滅ぼしのつもりなのかもしれないけど、無理に許そうとか思う必要ないから」
―― でも、さっき……。
悠哉に言われた『ごめん』の言葉が頭の中で再生され、その途端……どういう訳か今度は顔へと熱が集まる。
―― 僕は、何か大切な事を……。
見誤ってはいないだろうか?
悠哉の従者になってから、彼に怯えてばかりいた。
『……お前を、信じる』
「っ!」
ふいに、頭の中へと響いた声に、叶多はコクリと唾を飲み込む。
―― 彼は、僕を……信じるって言った。
「どうした?」
様子が変だったのだろう。一希がそう尋ねてくるが、形にならない想いを言葉にするのはとても困難だから、叶多は首を横に振るとその唇に笑みを浮かべた。
「そう、無理は駄目だよ」
伸ばされた手が髪へと触れる。
父親も、叶多が黙ると同じように撫でてくれた。
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