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 信じられない唯人の言葉に叶多は首を小さく振るが、そんな様子を愉しむように目前へ迫った彼は耳朶へと指を伸ばしてくる。 「一希さんや他の警備は智也が正面に集めてるから、今の内に……類、できた?」 「はい。出来ました」  ―― 彼は……どうして?  答える射矢の声は震え、いつもポーカーフェイスな彼から想像もできないくらいに、苦しそうに歪んでいた。  自分を助けた人物の中に射矢がいたと聞いていたから、その彼が、どうして唯人と一緒にいるのかが分からない。 「さっき叶多が通ってきた扉はセキュリティーを書き換えたから、一希さんは通れない。類は凄いだろう?」  愉しそうに囁く声。大好きだった筈なのに……今は恐怖しか感じられなくて身体中に鳥肌が立つ。 「どうした? もしかして……ビックリして声が出なくなっちゃった? まあいいや、行こう、叶多」  ―― 違う、僕は……。  触れた掌を腕で払うと、叶多は初めて唯人を睨んだ。またあそこに連れて行かれるのは本当に嫌だったから。 「まさか、帰りたくないとか言うつもり?」  綺麗な笑みを浮かべた唯人の声が僅かに低くなり、それだけで崩れ落ちそうなくらい膝がガクガクと笑うけど、少しでも時間を引き延ばしたくて叶多はコクリと頷いた。 「……もう、止めてくださっ……唯人様」 「類、誰が自分から喋って良いって言った?」  横合いから弱々しく響いてきた射矢の声に、視線も向けずに答える声音はまるで氷のように冷たい。 「叶多も……俺の言うことが聞けなくなった?」 「っ!」  見下ろしてくる彼の唇は笑みを象ってはいるけれど、本能的な危険を感じた叶多が思わず目を逸らすと……ベッドに座りこちらを見ていた射矢と一瞬視線が絡んだ。  ―― あれは……何?  先程は良く見えなかったが、ノートパソコンを操作する彼の手首には枷が付いていて……まるで熱でもあるかのように、頬は赤く、瞳は虚ろに揺れている。

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