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「あーあ、やっぱり駄目だったか」
頭を優しく撫でる感触に、意識を失い倒れてた類は、うっすらとその瞼を開く。
ここにいる筈の無い人物の声に驚いて視線を上げると、ベッドに座っているのは確かに佐野智也本人だった。
「あ……なんで?」
「どうしてかって? そんなの、お前が居るからに決まってるだろ」
飄々と答える声音に毒気はまるで感じない。媚薬と道具に犯され続け、かなりの熱を持っていた体も、彼が処理をしてくれたのか、幾分マシになっていた。
「また、唯人に逆らえなかったんだろ?」
「……使い道……無いって、言われ……」
頬を軽く撫でられた途端、涙がボロボロ零れはじめる。
こんな姿を見せることなど以前は絶対しなかったのに、小泉叶多が来てからは……感情を上手くコントロールできなくなってしまっていた。
長い……本当に長い期間、類は御園家の飼い犬だった。
幼い頃から突出した頭脳を持っていた類は、セキュリティーシステムをはじめ様々なソフトを開発し、望まれればその技術を生かしてハッキングなども行っていた。
一番の競合相手、須賀の近くに送られたのも、そういった技術や才能があったからに他ならない。
類の中で唯人の父は、才能を狙う組織や企業から幼い自分を守ってくれた恩人であり、親の収入も衣食住も、今なお全て御園家によって養われている状況だ。
「どうして、貴方は……」
「俺は唯人と一つの契約を交わした。小泉叶多を引き渡す代わりに、射矢類を貰うって……唯人は今や御園のブレインで、父親でさえ簡単には制する事が出来ないから……だけど、あんまり後味は良くないな」
「ど…して、ですか?」
自嘲的な笑みを浮かべる彼の本意が分からない。中等部に入った頃から類は智也を慕っていた。そんな気持ちを知った上で、「俺は自分より小さい男に興味ないから」と公言していた彼がどうして、そんな契約を交わしたのだろう。
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