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 ―― 俺は、捨て駒だった筈。 「お前、俺にだけは懐いてただろ? でも、いつも後ろめたくてたまらないって顔してた」 「そんな……」  思ってはいたが、表情にまでは出していなかった筈なのに、どうして彼に伝わったのかが分からなくて言葉に詰まった。 「俺は……俺自身にはそこまでの力が無いことを知ってる。どう足掻(あが)いても愛人の子だから。だからって悠哉や小泉が嫌いな訳でもない。彼は……お前に似てるから」 「私に……ですか?」 「すぐには懐かないけど、ホントは素直なところがね。そういう人間はマインドコントロールを受けやすい。類は前、御園家が両親の仕事の面倒まで見てくれてるって言ったけど、類を手に入れる為に、以前の仕事を取り上げることくらい簡単だったって考えたこと無いだろ?」 「それは……」  正直考えた事も無い。 「結局、俺が俺の手で引っ張れるのはお前だけだったってこと。でも、呪縛っていうのは自分で断ち切らないと……こうやって俺が引き寄せても、類はきっと苦しむ」  ―― 何を……言いたいんだろう? 「類がそれでよければ、俺たちはここでゲームオーバーだ。類の両親のこれからも保証させたし、今後一切御園がお前に命令することもない。だけど……」  傍らに開いたままで置いてあるパソコンを指差し、智也は類の掌を握るとそれを持ち上げてキスをした。 「……なっ!」 「ホント類は鈍感だな。まあ、それは後でいいや。お前、気を失う前、裏口のセキュリティーをロックしようとしてただろ」 「え? なんで……」  どうしてそれが分かったのか? ……と、目を見開いた類にいつもの笑みを向け、智也はディスプレイ上に表示されている数字の羅列を指で示す。 「類ほどじゃないけど、これくらいなら見れば分かる」 「……でも、できませんでした」  身体を媚薬と玩具に犯され、意識が覚束なかったせいだと言えないことも無いけれど、唯人から『必要ない』と宣告されたショックの余り、必死に彼へと抵抗している叶多の姿は見えていたのに、裏口をロックすることも出来ず類は視線を逸らしてしまった。 「うん、結果は何もしなかったのと一緒だな。でも、俺は……俺のエゴの為に彼を売った。唯人が彼に何をしてるか知ってても、止めもしなかった」 「でも……それは」  それが自分の為だったなんて類には信じられないけれど、もしも話が本当ならば、それは目的に対する智也の強い意志の表れだ。

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