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―― それに。
そんな風に言いながらも、智也自身が揺れていたのは行動から推測出来た。
「俺が言えたような事じゃないけど……類、お前はどうしたい?」
「私は……」
智也からそう問われてしまえば答えは既に決まっている。それを行うことはすなわち、裏切りを更に重ねることで、もし捕まれば受ける制裁も、最初に叶多を助けた時のきっと比では無いだろう。
―― でも、今度は違う。
ポンと掌を頭へ乗せられ新たな涙が視界を揺らした。
「辛かったな」
そう声をかけながら、嗚咽を漏らして震える姿に智也は小さく息を吐く。
智也が御園に近付いたのは、簡単には手放さないであろう類の為に他ならず、小泉叶多という存在は、格好の取引材料以外の何でもない筈だった。
悠哉の見せる執着ぶりに興味を抱きはしたけれど、だからといって情を掛ければ最悪何も手に入らない。
だけど、当の類が邪魔をした事で、智也は頭を切り替えた。
類が自分に好意を寄せているのは知っていたけれど、骨の髄まで御園によって支配されてしまっているから、例え奪って近くに置いても生真面目な彼は後悔する。
なにせ……電波障害が起こった夜、どうして叶多を庇おうとしてしまったのかすら、類本人にはきっとまるで理解が出来ていなかった筈だ。
「……ああ、分かった。俺も出来るだけのことはするから」
数日前に自分が付けたうなじの印を見つめながら、智也が思考を巡らせていると、『助けたい』と小さく囁く声が隣から聞こえてきて……それに言葉を返しながら、智也は出来る以上の事をしようと内心決意する。
―― 俺らしく……ないけど。
自分自身の出生について拗ねたりしたことは無いが、いつもどこかでセーブを掛け、限界を決める癖があった。
無理までして何かを得ようと思った事もまるでないが、それでも全てをそつなくこなし、それなりの立場も築いていた。
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