220 / 301
44
―― コイツは、それを簡単に見抜いた。
そんな智也が気紛れに……優しい声を掛けた相手は、いつしか心の中を大きく占める存在になっていて。
「泣くのはあとだ」
類が感情を外に出すのはとても珍しいことだから、落ち着くまで腕の中へと閉じ込めておきたい気分になるが、今はそれより叶多の事をなんとかするのが先決だ。そう考えて体を離すと頷いた類が涙を拭い、何かを決意したかのようにこちらを見上げて頷いた。
***
「今日でゲームが終わる」
もうこれは、ゲームなんていう遊び感覚の物では無い。そう叶多は思うけれど、声を出すことは叶わないから顔を持ち上げて唯人を見た。
「やっぱりあの時は、パニックになってたんだね。叶多が俺に逆らうなんて、おかしいと思った」
綺麗に笑うその表情に、背筋を冷たい物が這うけれど、精一杯の精神力で叶多も口角を持ち上げる。
ここに連れて来られてから、多分数日が経過しているが、時間感覚が麻痺してしまって今がいつかは分からなかった。だけど、唯人が発した言葉で今日が八月最後の日だと知る。
「おいで」
優しげな声に頷いてから、叶多は唯人の座るソファーへと半ば這うように移動した。窓際へと設えられたダークブラウンのカウチソファーは、座ると広いウッドデッキの向こう側に海が見える。
―― まだ、朝だ。
太陽が見えていないから、多分今は朝の時間。夕刻であれば沈む夕陽が、ほぼ正面に見えるはずだ。
ここがどこかは知らないけれど、御園家の保有する建物ではないと唯人が言っていたから、誰かに見つけ出して貰うのは困難だと思われた。
「ごはん、ちゃんと食べられたんだ。いい子」
髪をやさしく撫でられて、その掌に頬擦りをする。連れて来られた当初は勿論激しく抵抗したけれど、力じゃ全く太刀打ち出来ずに力ずくで犯された。
慣らさないまま後孔を貫き、
『悠哉とはしてなかったの?』
と、驚いたように尋ねた彼は、尚も逃げようと足掻く体を縄を使って拘束すると、一晩中容赦のない愉悦と暴力を与え続けた。
「声が出ないのは不便だと思ったけど、これも意外といいかもな」
犬用の器へと直に口を付けて食べていたせいで、汚れてしまっている口元を丁寧にナプキンで拭われる。
それから水を飲まされるけれど、これは必ず口移しで……生きる為に必要な物を唯人にこうして強請る行為が、支配を示す象徴なだけに酷くみじめな気分になった。
だけど、それを表に出すことは、もうしないと決めている。
ともだちにシェアしよう!