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「当分、治りそうもないね」
背中をツッと撫でられて、身体がビクリと跳ね上がった。痛いだろう? と続いた声が、嬉しそうだから背筋が凍る。
「っ!」
裸の体に付いた裂傷は数日が経っても癒えきらず、体中のいたる所に筋のような痕がつき、肉が見えるほど深くはないが、腫れたり皮が剥けていたりしていて、目を覆うくらい痛々しかった。
「止めて欲しい?」
問われて何度も頷き返すと、更に唯人の口角が上がる。
その姿に……暴力と、快楽によって完全に墜ちてしまっていると、思わせることができているのか叶多は内心不安になるが、それを悟られてしまわぬように彼の脚へと縋りついた。
今までの叶多であれば、もう完全に諦めている。
服を剥がれ、首輪で繋がれ、鞭で打たれ、更に快楽を注ぎ込まれて、その状況で『お前が悪い』と何度も言われ続ければ……思考を断って流される事で自身を守ろうとしただろうし、「そうなのかもしれない」と、きっと思ってしまっていた。
「ん、どうした?」
甘えたように手の甲を舐めると、柔らかな声が降り注ぐ。こんなになるまで虐げられても、騙すことに罪悪感はまだあった。それほどに、叶多にとって唯人は大切な存在だった。
「何? 欲しいの?」
おずおずと指を伸ばした叶多がズボンの前を寛げると、大きな唯人の掌が頬を包み込むように触れてくる。
叶多の考えそのものが彼に見抜かれていない保証もないから、出来る限りの知恵を絞って隷属を彼に示そうとしていた。
―― きっと、いつかは……。
ずっと、希望を持っても報われないと己を戒めてきたけれど、唯人が彼の父親のように、鞭を手に取り振り上げた時、諦観しそうな頭の隅に響いた一つの声があった。
『傷、これ以上増やすなよ』
一学期が終わった日……唯人のところへ行く決断をした叶多へと、悠哉が低く放った言葉。
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