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『辛かったな』
そう告げてきた悠哉に肩をポンと軽く叩かれて……堪えきれずに涙を流してしまったのがつい数日前。
『涙腺が壊れたんじゃない?』と、冗談っぽく智也が言ったが、本当にそうなったんじゃないかと思えてしまうくらい、これまでに無い感情で心の中が満たされていた。
智也と二人で悠哉の元へと赴 いた時、どれだけ彼から罵倒されても仕方が無いと覚悟を決めて臨 んだだけに、労 う悠哉のその一言が心の奥へと深く響いた。
だから、できる限りの力を使って償いたいと思ったのだ。
――だから、俺は……。
「類は間違えたわけじゃない。何にせよ忠実だったって事だ」
まるで、そんな思考を読んだかのように耳へと低く響く声に、指を止めて背後を見遣ると智也の顔がそこにある。
「……ありがとう」
もう心配はかけたくないし、泣いている暇も今は無いから、類はそれだけ言葉を返すとパソコン画面に集中した。
誰もが、間違えていると思って動いた訳じゃない。それは類にも分かっている。
智也さえいなければ、今でも類は御園の駒として動いていたに違いないし、それが間違いだなんて微塵も思ってなどいない筈だ。
――曖昧……だ。
立場一つ、気持ち一つでいくらでも見方が変わる。
そんな、当たり前の思考も持てずに類は御園を盲信していた。知らなかった訳では無いが、必要の無い物だったから。
「あんま、根詰めすぎんなよ」
それを教えてくれた存在は、類の頭を軽く撫でてから、背後のソファーへ腰を下ろした。そして――。
「大丈夫だ。きっと上手くいく」
凛とした声が鼓膜を揺らす。唯人がどこへ消えてしまったのか最初は全く掴めなかった。きっと……自分がこちらに付く事を踏まえかなり用心したのだろう。
それでも僅かな痕跡を集め、一つ一つ重ねることで、類は幾つかの候補をそこから絞り出す事に成功した。
――もう、迷わない。
答えは一つだけじゃない。だけど、その全てが自分にとって肯定できる物ではない。
――俺は、決めたから……。
類は類にしか出せない答えをようやく選び取ったから……そこから生まれる心の痛みも、背負うであろう責任も、全て受け容れ前に進もうと心に固く誓っていた。
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