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 *** 『辛かったな』  そう告げてきた悠哉に肩をポンと軽く叩かれて……堪えきれずに涙を流してしまったのがつい数日前。 『涙腺が壊れたんじゃない?』と、冗談っぽく智也が言ったが、本当にそうなったんじゃないかと思えてしまうくらい、これまでに無い感情で心の中が満たされていた。  智也と二人で悠哉の元へと(おもむ)いた時、どれだけ彼から罵倒されても仕方が無いと覚悟を決めて(のぞ)んだだけに、(ねぎら)う悠哉のその一言が心の奥へと深く響いた。  だから、できる限りの力を使って償いたいと思ったのだ。  ――だから、俺は……。 「類は間違えたわけじゃない。何にせよ忠実だったって事だ」  まるで、そんな思考を読んだかのように耳へと低く響く声に、指を止めて背後を見遣ると智也の顔がそこにある。 「……ありがとう」  もう心配はかけたくないし、泣いている暇も今は無いから、類はそれだけ言葉を返すとパソコン画面に集中した。  誰もが、間違えていると思って動いた訳じゃない。それは類にも分かっている。  智也さえいなければ、今でも類は御園の駒として動いていたに違いないし、それが間違いだなんて微塵も思ってなどいない筈だ。  ――曖昧……だ。  立場一つ、気持ち一つでいくらでも見方が変わる。  そんな、当たり前の思考も持てずに類は御園を盲信していた。知らなかった訳では無いが、必要の無い物だったから。 「あんま、根詰めすぎんなよ」  それを教えてくれた存在は、類の頭を軽く撫でてから、背後のソファーへ腰を下ろした。そして――。 「大丈夫だ。きっと上手くいく」  凛とした声が鼓膜を揺らす。唯人がどこへ消えてしまったのか最初は全く掴めなかった。きっと……自分がこちらに付く事を踏まえかなり用心したのだろう。  それでも僅かな痕跡を集め、一つ一つ重ねることで、類は幾つかの候補をそこから絞り出す事に成功した。  ――もう、迷わない。  答えは一つだけじゃない。だけど、その全てが自分にとって肯定できる物ではない。  ――俺は、決めたから……。  類は類にしか出せない答えをようやく選び取ったから……そこから生まれる心の痛みも、背負うであろう責任も、全て受け容れ前に進もうと心に固く誓っていた。

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