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「珍しい」 「何が?」  いつもと変わらず愛想の欠片もない表情で答える悠哉に、『お前が他人を頼るなんて』と喉元まで言葉が出るが、智也は軽く掌を振って『なんでもないよ』と微笑んだ。 「それにしても、よくこんな短時間で見つけたな」 「ああ、お前も知っての通り、類は優秀だから」  そう言い放った智也に頭をクシャクシャと撫でられている類は、何も答えることが出来ずに耳まで赤くなっている。  そんな様子を瞳に映し、人間変われば変わるものだと悠哉は内心思ったが……自分自身が変化している自覚は殆ど持っていなかった。 「俺はここで待機する。時間が過ぎて連絡が無ければすぐに雅志に連絡するから」  不安な気持ちを抱きながらも、一希はそう彼らに告げる。責任のある大人として矢面に立つと悠哉に告げたが、救護とルールの観点から、それはあえなく却下された。 「ああ、分かってる。でも、大丈夫だから」  静かに言葉を紡ぎながらも不敵に微笑む悠哉の姿に、その場にいる誰もが彼の本来の姿を思い出す。  いつになく、ここのところは少し精彩を欠いていたが、従来は、絶対的な自信と実力を兼ね備え、獅子のように気高く強い精神力の持ち主だと。 「久世は俺と一緒に動く。伊東は佐野と射矢と一緒に誘導とシステムを頼む」  もし、再度智也が裏切った時、瞬では二人を止められないという判断から配置を決めた。  伊東と智也と瞬の間に、何があったのか知らない訳じゃないけれど……叶多を救出する上で、これ以上の策は浮かばない。 「了解」  聞こえてきた明瞭な返事に、視線を向けると瞬と視線がぶつかって……その瞳から、彼の決意が真っ直ぐに伝わった。  小柄ながらも彼はそれなりに腕が立つし、何より叶多にとって唯一友達と呼べる存在だ。  彼を、危険の伴う配置にしたのが伊東辺りは不服だろうが、計画通りに事が運べば暴力沙汰にはならないだろう。 「定刻になったら動く。それまで一旦解散する」  腕時計をチラリと見遣ってそう告げてから、悠哉は先に生徒会室をあとにした。

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