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「……っ!」
「折角注いであげたのに……漏らしちゃ駄目だろ?」
太股を伝う白濁を見て、溜め息混じりに唯人が告げると、みるみるうちに真っ青になった叶多の震えが大きくなった。その瞳に浮かぶ絶望の色を見て、歓びに似た感情が心の底から湧き出してくる。
「で、何の用?」
ソファーの下へと叶多を降ろし、寛げていたズボンを直すと、唯人はようやく首を回してドアの方へと顔を向けた。
「お前っ……叶多に何してんだよ!」
「待て」
想像以上に酷い有り様を目にして動きを止めていた瞬が、走り出そうとしたのを片腕を伸ばして悠哉は軽く制した。
「でも……」
「分かってる」
不満げな瞬に静かに答え、立ち上がった唯人に向かって悠哉はゆっくり歩き出す。
「久世は、扉の外を見張れ」
背後に気配を感じて告げると、「了解」と短く答えた彼はそのまま踵を返した。きっと……姿を見られたく無いであろう、叶多の気持ちを察しての行動だろう。
「暴力で解決するつもり?」
口端だけで微笑みながら、唯人が叶多の髪を掴む。
「お前がしてることと同じになるからしない。お前の負けだ……退け」
裂傷だらけの叶多を見れば、殴りたいという衝動に強く駆られるけれど、悠哉は耐えた。
似たような事をしていた自分が偉そうに言える立場ではないが、身体に傷を刻みつけるような、そんな心境は理解が出来ない。
「やってることは同じだろ? 言うことを聞かない飼い犬を躾 るのは、主人の役目だ……違う?」
「止めろっ」
「っ!」
「叶多、お前は悠哉のところに行きたい? そうじゃないよな」
上向きにさせた叶多の頬を、加減もせず平手で叩いた唯人に溜まらず掴み掛かろうと、悠哉が動いた丁度その時、それまでなすがままになっていた叶多が小さく口を開いた。
「……う、ちが……」
細く掠れた小さな声。注意を払って聞いていなければ、呻き声だと思えるくらい、不安定にそれは響いた。
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