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『馬鹿だな』
頭の中へと声が響く。聞き覚えのあるその声音には、侮蔑の色は少しもなく、どちらかと言えば自嘲しているような雰囲気を持って静寂に響いた。
『お前も……俺も』
掌が頭を優しく撫で、そのまま頬へと移動する。
叶多はといえば頭の中は徐々に覚醒しているが、上手く状況を飲み込めなくて、おまけに瞼も開かないから、そのまま聞こえる悠哉の声へと意識を向けて言葉を待った。
「お前の力が足りなかった訳じゃない。アイツは……きっと分かってる。だから……」
『自分を責めるな』と呟く声に、叶多は泣きたい気持ちになる。
唯人やその父親の明弘が、自分を通して誰を見ていたか本当は知っていた。
自分の父は彼らの言うような人間じゃないと信じていても、繰り返し何度も何度も身体に教え込まれる内……脆くなった思考は贖罪 の方向へと傾いてしまった。
「お前は……受け止められなかった事を、悔やむかもしれないが……」
―― ど、して……?
何故自分の気持ちをここまで彼は見抜いているのだろう? ……と、驚き瞼を開こうとすると、僅かな動きに気付いた悠哉はそこで一旦言葉を止め、
「起きたのか?」
と、頬に触れていた掌を引いて訪ねてきた。
「……は…い」
自分の声とは思えないくらい、掠れた声が室内に響く。
そのあと直ぐに濡れたタオルで顔を丁寧に拭われて、ようやく戻った視界の中に飛び込んだのは、やはり悠哉の顔だった。
「二日間……お前は寝てた。今朝、熱が下がったから点滴は取れたけど、まだ無理に動かないほうがいい」
神妙な面持ちでそう告げくる彼に頷くと、叶多は視線をゆっくり動かし、ここが見覚えの良くある部屋だと気付いてコクリと唾を飲む。
「俺は……違う場所にした方がいいって言ったんだが、ここが一番安全だからって……嫌か?」
そんな僅かな動きに気付いて、言い訳じみた言葉を放った悠哉に驚き目を見開くと、叶多は小さく首を横に振り「嫌じゃ……ないです」とはっきり告げた。
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