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「酷い事され続けたあと、ちょっと優しくされて……それで情が移っただけだ。DV被害者と同じで、きっとマインドコントロールされちゃってる。だから……」 「……がう。瞬……それは、違う」  根拠もないのに溜まらず放った声に瞬が言葉を止めた。  そして、暫し続いた沈黙の後、叶多が口を開こうとすると、ノックも無しに部屋の扉がゆっくり開く音がする。 「あっ……」  そちらに目を向け最初に声を発したのは瞬だった。 「久しぶりだね」  声も出せずに固まる叶多に柔らかな笑みを向けながら、部屋へと入って来た人物は、悠哉と智也の父親で……その背後には困ったような表情をした一希がいる。 「少し話がしたいそうだ。久世くん、ちょっとこっちに来て貰っていい?」 「はい」  手招きをした一希と共に瞬が部屋を出ていったあと、悠哉の父、雅志はゆっくりベッド脇へと近付いてきた。 「身体はどうだい?」 「だいぶ……良くなりました。もう、大丈夫です」  パジャマでほとんど隠れてはいるが、それでも裾からはみ出している包帯を隠すように袖を引き、叶多は彼へと笑みを向ける。  一希がどこまで話をしたのか分からない今の状況では、あまり心配をかけるような姿は見せたくなかったのだ。 「叶多君には本当に申し訳のない事をした。君がこんな目に合うくらいなら、裁判で争った方が良かったと今は悔やんでいる。私の話を……聞いてくれるかい?」  悠哉に良く似た低音に、ますます鼓動は速くなるけれど、それでも叶多が頷くと……ホッとしたように息を吐き出した雅志が言葉を紡ぎ始めた。  雅志の話す所によると、叶多の父が彼へと託した書類と殆ど同じ物を、御園が所持していた事により、形勢が悪くなったらしい。  偽造だという証拠を出すのは難しく、それまで叶多の父が御園の秘書であったという事と、大学以来繋がりの無い雅志に託すのは不自然だという訴えに……このままでは泥仕合になり、敗訴する可能性が濃厚だと判断した。

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