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「勝つ方法はあった。君が裁判で……御園明弘に何をされたかを話す事だ。だが、それだけは回避したかった」 「そんな……」 「だから、とりあえず君を手元に置き、短期間で解決しようと考えた。ゲームのルールを利用して、君の尊厳を傷つけることなく解決できれば……と」  そこまで話した所で大きく溜息を吐き、傍らにある椅子へと腰掛けた雅志はガクリと項垂れる。 「裁判より確率は高いと踏んだんだ。ゴシップを怖れた御園もすぐにそれを了承した。息子達にも必ず守れと……だが、私は間違えてしまった。例え君が、一時は傷つく事になっても……裁判で証言さえさせていれば……」  ――ああ、この人は。  心の底から悔やむ姿に、全てを知っているのだと悟った。  きっと忙しい仕事の合間に、自分を気に掛けここまで来てくれたのだろう。前回と違い、スーツの折り目が多少だけれどもよれている。 ――でも、だけど……。 「……僕は、大丈夫です。会長や、みんなが助けてくれたから、こんな怪我……何でもないです」  どうやって救い出されたのかは、瞬から聞いて知っていた。  類が正門のセキュリティーを解いた瞬間、集められた生徒達が一斉に侵入し、その間隙(かんげき)を縫って悠哉が叶多を救い出したのだと。  いくらプロのガードマンでも、未成年の学生……しかも、良家の子息ばかりと聞けば、手を出すなんて出来ないだろうと踏んでの計画だったと聞いた。  何の理由も知らされていない生徒が動いてくれたのは、きっとそれだけの人望を……生徒会の彼らが集めているからだろう。 「叶多君は優しいな。だが、残念ながら、息子達が……君を虐めていたという報告も入っている。脅されてるのかもしれないが、庇う必要はないんだよ。御園のスパイだった射矢君も含めて、彼らには謹慎して貰っている。然るべき処置を取った後、転校させるつもりだから、安心してくれていい」  顔を上げ、自嘲気味な笑みを口許に浮かべた雅志は、静かな口調でそう告げてきた。 「脅されて……ないです。行き違いは、あったと思います。だけど、裁判で話すだけだったら、きっと分からない事が、たくさんあって……だから、学校を変えたりは……しないでください」  絞り出すように紡いだ言葉に、雅志が瞳をスッと細める。  本心を探るような視線に息が苦しくなるけれど、それでも真っ直ぐ見つめ返すと、困ったように微笑んだ雅志が「参ったな」と低く呟いた。

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