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「それで本当にいいのかい? 我が子とはいえ、彼らがしたことは犯罪だ。勿論御園がした事も……それを全て無かったことにする事なんて、虫が良すぎやしないかい?」 「無かった事には……出来ないと思います。でも、僕はそれより……」 『彼の事を知りたい』と、自然に思った叶多の頬がみるみる内に赤く染まり、それを瞳に映した雅志は、悟ったように息を吐き出し「仕方ないな」と立ち上がる。 「分かった。君の意志を尊重する。でも、幾つかの決め事は守って貰うよ」  悪戯っぽく微笑みながら、そう告げてきた雅志に叶多は戸惑いながらも頷いた。柔らかなその雰囲気に……つられてしまったからもあるけれど、引き替え条件だとするならば、否と言える立場でもない。 「なぁに、大した事じゃない。君たちには普通の高校生活を送って貰う……それだけだ」 「じゃあ……彼らは」 「ああ、転校はさせない」 「ありがとうございます」  自然とこぼれた礼の言葉に、頷き返した雅志は叶多に軽くウインクをして見せた。 「なるべく一希に居て貰うから、何かあったらすぐに言いなさい。それが、私と君の決め事だ」 「はい」 「それから、息子達を赦してやってくれて、ありがとう」 「そ、そんなことっ……」  深々頭を下げる雅志に慌てた叶多が立とうとすると、「寝ていなさい」と手で制されて、再度髪の毛を撫でられる。 「蓮は……立派な男だ。ただ一人の女性を愛し、君という宝物を守るために生きた。誰か何を言おうとも、それだけが真実だ」  離れ際、重みのある声音で告げられ、瞳の奥がツンと痛んだ。  事実……何があったかは分からないけれど、雅志のその言葉だけで、これまで受けた全ての雑音が叶多の中から消えていく。 「じゃあ、私はそろそろ行かなくてはならないが、これからは出来るだけ頻繁に来られるようにする。元気になったら、また一緒にお母さんに会いに行こう」 「……はい。ありがとうございました。気をつけて」 立ち去る雅志の背中を見送る叶多の気持ちはスッキリしていて、今ならば……悠哉に臆する事無く話が出来る気がした。

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