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 ここは彼の部屋だというのに、朝少しだけ立ち寄るだけで、いつも瞬と入れ違いに悠哉は部屋から出ていってしまう。  それが、彼の父からの条件であると瞬に聞いて知っているから、短い時間でなるべく話をしたいと叶多は思っていたが、いざとなるとなかなか言葉を見つける事ができなかった。 「学校へは、行ってるんですか?」 「行ってる。お前のお陰で転校しなくて済んだ」 『ありがとな』と、続いた言葉に叶多は頭を横に振る。 「あの……」  そんな事は無いのだと……自分の方こそ何度も助けて貰ったのだと言いたくて、唇を少し開いたところで悠哉のスマートフォンが鳴り、言葉は喉で立ち消えになる。 「久世が話があるって言ってる」  一言二言話をした後、悠哉がスマホをこちらへ差しだし、水仕事をしていた叶多が慌てて手を拭こうとすると、「そのままでいい」と放った彼がスマホを叶多の耳へと当てた。 「……もしもし?」 『叶多?』 「うん、瞬、どうしたの?」 『ごめん、今日そっちに行けなくなった。一希さんに連絡したけど繋がらなくて』  申し訳無さそうに響く受話器の向こう側からの声に、何かあったのか心配になり、叶多がそれを尋ねてみると、 『いや、何かあったとかじゃないんだ。ただ、急な予定が入っちゃって』と、彼にしては珍しく、曖昧な言葉が返ってくる。 「そうなんだ。僕は大丈夫だから、気にしないで」  朝学校へ行く前と、放課後には欠かさず毎日来て貰っている事が、有り難いけれど申し訳ないと思っていた叶多だから、出来るだけ明るい声音で受話器に向かって言葉を返した。 『ホントごめん。明日には必ず行くから』 「うん、分かった。電話ありがとう」  律儀な彼に薄く微笑むと、「また明日」と一言告げて叶多は通話を終了する。 「ありがとうございました」 「久世はなんて?」  タイミングを見計らって耳から電話を離した悠哉に、尋ねられて内容を告げると、苦笑を浮かべた彼は小さく「……分かり易いな」と、呟いた。

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