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「……圭吾は、優しい」
「瞬にだけ……ね。でも、こうならなくても瞬はこっちを選んでた。そうじゃなかったら這ってでも行くだろ?」
ポロリと零れてしまった本音を掬い取って、圭吾が答える。彼は瞬の気持ちに気付いて、逃げ道を作ってくれたのだ。
「うん、そうだけど、でも……」
いつも言えない感謝の気持ちを伝えようと唇を開くが、上手く言葉にならなくて……だから瞬は背後を振り仰ぎ、薄く笑みを浮かべる圭吾の口へと、触れるだけのキスをした。
***
「どうしよう」
小さく呟き、途方に暮れた叶多は眉尻を下げて自分の掌を見る。
薬を塗ると悠哉に告げ、寝室へと来たのはいいが、いつも瞬が塗ってくれている背中には指が届かないから、仕方なく手の届く範囲に塗ってガーゼを取り替えた。
だけど、包帯を巻く段階になって、上手く巻けずに手間取っている。
「……今日だけ」
あまり時間が掛かってしまうと、悠哉に心配されてしまう……と、焦った叶多はそのままシャツを着る事にして立ち上がった。
深い傷は完治していないが、以前ほど痛むことは無いから大丈夫だと思ったのだ。
「大丈夫か?」
「はい、いえ、もうちょっと……」
シャツに左手を通したところで扉の外から聞こえた声に、叶多が咄嗟にそう答えると、少し静かになったあと何故か突然扉が開かれたから、慌てた叶多は掌でシャツの前をギュッと握りしめた。
「やっぱり……気付かなくて悪かった」
ベッドの上で山になっている包帯を見た悠哉は言うと、そのままツカツカ近付いてきて、チェストの上から軟膏を取る。
「今、久世から連絡が来た。背中に塗れないから手伝ってやれって……そこに座れ」
「え、あ……でも」
「何もしない」
「今日は……いいです」
「そんなに嫌か?」
抑揚も無く低い声音だけれど、怒っているというよりもそれは悲しそうに空気に溶けた。
「違う、違います……ただ、僕は……」
そうじゃないのだと伝えたくて、叶多は必死に言葉を紡ぐが、やはり上手に言葉に出来ずに、声が情けなく震えてしまう。
――どうして?
一希にだって瞬にだって、恥ずかしいけれど見せられるのに、今まで何度も抱かれた悠哉に見られたくないと思うのか?
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