243 / 301

14

「……圭吾は、優しい」 「瞬にだけ……ね。でも、こうならなくても瞬はこっちを選んでた。そうじゃなかったら這ってでも行くだろ?」  ポロリと零れてしまった本音を掬い取って、圭吾が答える。彼は瞬の気持ちに気付いて、逃げ道を作ってくれたのだ。 「うん、そうだけど、でも……」  いつも言えない感謝の気持ちを伝えようと唇を開くが、上手く言葉にならなくて……だから瞬は背後を振り仰ぎ、薄く笑みを浮かべる圭吾の口へと、触れるだけのキスをした。  *** 「どうしよう」  小さく呟き、途方に暮れた叶多は眉尻を下げて自分の掌を見る。  薬を塗ると悠哉に告げ、寝室へと来たのはいいが、いつも瞬が塗ってくれている背中には指が届かないから、仕方なく手の届く範囲に塗ってガーゼを取り替えた。  だけど、包帯を巻く段階になって、上手く巻けずに手間取っている。 「……今日だけ」  あまり時間が掛かってしまうと、悠哉に心配されてしまう……と、焦った叶多はそのままシャツを着る事にして立ち上がった。  深い傷は完治していないが、以前ほど痛むことは無いから大丈夫だと思ったのだ。 「大丈夫か?」 「はい、いえ、もうちょっと……」  シャツに左手を通したところで扉の外から聞こえた声に、叶多が咄嗟にそう答えると、少し静かになったあと何故か突然扉が開かれたから、慌てた叶多は掌でシャツの前をギュッと握りしめた。 「やっぱり……気付かなくて悪かった」  ベッドの上で山になっている包帯を見た悠哉は言うと、そのままツカツカ近付いてきて、チェストの上から軟膏を取る。 「今、久世から連絡が来た。背中に塗れないから手伝ってやれって……そこに座れ」 「え、あ……でも」 「何もしない」 「今日は……いいです」 「そんなに嫌か?」  抑揚も無く低い声音だけれど、怒っているというよりもそれは悲しそうに空気に溶けた。 「違う、違います……ただ、僕は……」  そうじゃないのだと伝えたくて、叶多は必死に言葉を紡ぐが、やはり上手に言葉に出来ずに、声が情けなく震えてしまう。  ――どうして?  一希にだって瞬にだって、恥ずかしいけれど見せられるのに、今まで何度も抱かれた悠哉に見られたくないと思うのか?

ともだちにシェアしよう!