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 ―― 僕は……。 「……ゆっくりでいい」  そんな心情を悟ったように、そう告げてきた悠哉に視線を向けようとするが、途端に心臓が煩くなって息をするのが苦しくなった。  静寂が室内を包み、徐々に強くなる風の音が僅かながらに耳に入る。  目の前に立つ悠哉はそのまま待ってくれている様子だったが、どう言葉にすればいいか分からず叶多はゆっくりと瞼を閉じて、一旦視界を遮断した。  そうすれば、少しは落ち着くかもしれない……と、考えたのだ。 「リビングに居るから……ちゃんと服着てから来い」  暫くの間そうしていると、頭上からふいに声が掛かり、反射的に目を開いて見ると、困ったように微笑んだ悠哉が「悪かったな」と呟いた。 「ちが……違うんです」  彼の真意を悟った叶多は同じ言葉を繰り返すけれど「無理するな」と、短く返されいよいよ頭が混乱する。  ―― 嫌な訳じゃ……。  彼の助けを拒んだのは、決して嫌だからではない。理由を説明出来ないのも、「嫌だ」と言えないからじゃない。  ―― 早く……じゃないと。  (きびす)を返す悠哉の姿に焦りばかりが胸に募る。  思い違いかもしれないけれど、今彼をちゃんと引き留めなければ、自分が前へと進めないような切迫感がわき出していた。 「待って、行かないで……」 「危ないっ」  慌てた叶多は立とうとするが、バランスを崩しベッドの上からあえなく落下してしまう。気付いた悠哉が腕を伸ばすが、少し離れてしまっていた為、受け止める事はできなかった。 「うぅっ」 「大丈夫か?」  床には絨毯が敷かれていたから衝撃は緩和されたものの、それでも一瞬息が詰まって叶多は体を小さく丸める。  焦ったように近付く声に、「大丈夫です」と言おうとすると、「どうしてこんな無理をするんだ」と苛立ったような声が聞こえて、体がフワリと宙に浮いた。 「あっ……ごめん…さい」 「お前に怒ってるんじゃない。自分に腹が立っただけだから謝るな」  横抱きにした叶多の身体をベッドの上へと横たえながら、眉間に僅かな皺を刻んだ悠哉が低く告げてくる。

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