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「っ!ごめっ…なさ……」 「違う、謝るのは……俺の方だ。好きなだけ、気が済むまで……泣いていい。落ち着くまで、傍にいるから」  傷になるべく触れないようにそっと背中へと腕が回され、引き寄せられたシーツの上から優しく身体を抱き締められる。 「……辛かったよな」 『ごめん』と続いた彼の囁きに、更なる涙が溢れ出し……叶多は悠哉に促されるままその胸に顔を埋めて泣いた。  ***  腕の中、薄い肩を震わせながら嗚咽を漏らす叶多の姿に、表情にこそ出しはしないが悠哉は酷く狼狽(うろた)えていた。  ―― 初めて……だ。  思い返せばこれまで叶多は涙を流した事がない。  常に諦観しているような表情なのにも関わらず、絶望を映す瞳の奥には強い光が宿っていた。  ―― だから、俺は……。  何をされても泣きもせず、悠哉の事を見ようともしない叶多の姿に苛立った。 『博愛主義』とか訳の分からない理屈を並べ立てながら、あちらこちらで不貞を働く父に不満を抱いていたから、叶多の母もそんな父親に取り入ったのだと思っていた。 「ごめん」  そんな……自分勝手で子供じみた言い訳が、通用するとは思わないから、悠哉は何度も謝罪するけれど、その都度叶多は首を横に振り「違う」と掠れた声で答える。  だから、悠哉は益々分からなくなって、少しでも早く落ち着くように叶多の背中をトントンと叩いた。  どうやら暴風域の中へとこの学園も入ったらしく、窓の外へと視線を向けると、横殴りの激しい雨に木々が大きく揺れている。  ―― これじゃあ、一希さんも無理そうだな。  この状況だと(ふもと)の道路は一時封鎖されるだろうから、とりあえず今日のところは一日叶多と一緒に居られる……と、考えた所で悠哉は自分の心境に苦笑した。 「……寝たのか?」  小一時間もそうしていると、嗚咽は徐々に細くなり、控えめな声で悠哉が聞くと、僅かに身体を強ばらせてから叶多は小さく頷いて見せる。 「え? あ……でも、お前、今……」  想定外の反応に、上手く言葉を紡げなくなった悠哉がしどろもどろに告げると、腕の中にいる叶多の耳が一気に真っ赤になったから……どういう事か分からなくなりやけに心臓が煩くなった。  この状況で冗談だとは、とてもじゃないが考えられない。

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