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「起きてる……よな?」  再度悠哉が囁くと……今度はピクリと震えただけで、特に反応を示さなかった。 「寝たか。じゃあ、これから話すのは、俺の独り言だ」  散々泣いてしまった後だから、ばつが悪いのかもしれない。悠哉のシャツの前の部分をキュッと掴み、顔を埋める叶多の姿に、見当外れかもしれないが、そう考える事にした。  そして、「独り言」だと断りを入れると、またも頷く叶多の姿に薄く微笑んで言葉を紡ぐ。 「最初、俺はお前を利用しようとしてた。御園と繋がってるお前に智也を近付けたのも、アイツが御園と繋がってる証拠が掴めればいいって思ったからだ。だけど……」  その辺りから悠哉の中には既に矛盾が生じていた。それまで……男同士での恋愛を、否定した事は無かったけれど、自分がそうなる可能性など微塵も無いと思っていた。  なのに、あの日最初に叶多を犯した教室へと……伊東と共に足を踏み入れた時、乱れた姿を目の当たりにして、説明しようの無い激情が心の中を埋め尽くした。 「……認めたく、無かった」  公平で人望があり、学力的にも優れているから、須賀家を継ぐに申し分のない嫡子であると言われて来たのに、叶多との出会いによって、それまで必死に積み上げてきた優等生の仮面を容易(たやす)く壊された事に激昂した。 「自分の中にこんな感情があるなんて、知らなかった。だから……お前を切り離そうと思った」  上手く感情を制御しなければ、いつ智也や彼の支持者に、足を掬われるか分からない。だから、その時の悠哉にとってはそれが一番の策だった。そうすれば……これまで通り問題の無い後継者へと戻ることができる。 「でも、結局……お前を見てたらそれもできなくて……父親の命令だからって言い訳して、傍に置いた。お前は相変わらず俺を見ようとはしなかったけど、俺は……」 『自分を見て欲しかった』―― という言葉を、口から溢れる(すんで)のところで飲み込んだ。  今、気持ちを伝えたところで、泣いたばかりで不安定な叶多を更に惑わせるだけだ。  それに、そんな資格もありはしない。 「どうして、お前は俺に会いたがったのか……それが不思議でたまらないけど、何か言いたいことがあるなら、何でも言ってくれていい。なんなら殴ってくれても……お前の気の済むように……」 「そんなこと、したい訳じゃ……ただ、僕は……」 「そうだな。お前は、そんなこと考えられるような奴じゃない。今のは……俺が悪かった」  叶多がそんな事を望むような人間じゃないと分かっていたのに、つい自虐的になった自分を悠哉は認めて謝罪する。と、決意したように頷いた後、叶多はゆっくりその顔を上げ、至近距離から悠哉を見上げて、 「……優しかったから」 と小さな声で囁いた。

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