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よほど予想外だったのだろう、瞳を見開く悠哉の姿に叶多の心が僅かに融ける。
融けるという表現が、似つかわしいかは分からないけど、ようやく声に出せた事で、胸に閊 えていた感情が形を帯びたような気がした。
「優しいって……俺が?」
戸惑ったように聞き返してくる悠哉を見つめて頷き返すと、分からないといったように首を僅かに傾ける。
叶多自身も自分の言葉が足りない事は分かっているから、出来る限りきちんと伝えようと考え、乾いた喉を潤す為にコクリと唾を飲み込んだ。
「最初……凄く怖かった。僕は、それまでずっと……唯の傍にいて、それで……」
前の学校で自分が受けた様々な仕打ちを思い出し、声を震わせ言葉を止めると、背中にある彼の掌が身体を優しく引き寄せる。
「無理に話さなくていい」
苦し気に潜められたその眉に、切なさで胸が一杯になるが、ここで止めたら駄目だと思い、叶多は再度唇を開いた。
「ずっと、どうして僕ばかりって……思ってた。そのうち、何をしても無駄だから諦めようって、時間が過ぎるのを待てば、いつか終わるって……」
どうにかそこまで話したところで折れた小枝が窓に当たり、いくら強化ガラスだとはいっても、静かすぎる部屋の中に幾分大きな音が響く。
「大丈夫、今は酷く降ってるけど、通り過ぎれば晴れる……から」
身体をビクリと強ばらせながら外を見遣った叶多の耳に、落ち着きのある低音が響いて、更に続いた彼の言葉に叶多の目からは止まった筈の涙が再び溢れ出た。
「なんだか……俺みたいだな」
短い言葉だったけれど、言いたい事は伝わった。
叶多からすれば悠哉の存在そのものが……台風のような物だったろうときっと考えたのだろう。そう思っていた時期もあるし、実際そうだったのだろうが、今、叶多が伝えたいことはそういう類の物ではなかった。
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