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「だけど、僕がいくら心を…心を消してしまおうって思っても、あなたは…許してくれなくて……辛くて、逃げたくて、だけど、でも…少しずつ……」  何度も何度もえづきながらも、それでも叶多は言葉を紡ぐ。悠哉と一緒に下校した時、何気なく交わした会話や、生徒会の中での仕事を手伝わせてくれた事。  最初に身体を開かれた後、『小泉叶多に手を出すな』と、全校生徒に告げた事も……瞬から聞いて知っている。 そして――― 。 『お前を……信じる』  そう告げられたあの時から……彼の掌の温もりに、恐怖以外の感情を徐々に抱くようになっていた。 「あの時は、希望を持っちゃいけないって思ってたから、ずっと考えないように、してたけど……今、僕は、あなたの手に……安心する。瞬は、勘違いしてるって言うけど、僕には、そんなの分からない。もしそうだとしても、今のこの気持ちは、勘違いなんかじゃない……と、思うから…だから……」  これ以上どう言葉にすれば、彼に思いが伝わるのか?  懸命に考えながら、叶多は言葉を詰まらせ静かに嗚咽を漏らした。 「……僕は、あなたを……」  それでも……分からないなりに伝えようと、叶多は必死に言葉を繋ぐ。  悠哉が何故、自分に辛く当たっていたのか分かった今、叶多の心はようやく一つの答えを導き出そうとしていた。  理由が分かったからといって、許せるような事ではないと言う人間もいるだろうが、ならば……間違えない人間が、どこにいるというのだろう?  ―― だから、僕は……。 「あなたを、もっと……知りたい」  声を出せなくなってから、分かった事が沢山ある。  それまで声など出せなくても、誰にも届く事は無いから不自由しないと思っていたのに、毎日悠哉と過ごすうち……唇を読もうとしている彼の表情や仕草を見るうち、気付けば声を出せるようになりたいと強く願っていた。 「俺が、怖くないのか?」 「今は……もう、怖くない」  涙で歪んだ視界では、悠哉がどんな表情(かお)をしているのかあまり良くは見えないけれど、背中を優しく撫でる掌に僅かな力が籠ったのだけは、はっきりと感じ取れた。 「なら、泣くな」 「……っ!」  顔が近付いて目元をペロリと舐められる。驚きに目を見開くけれど、嫌な気持ちはしなかったから、叶多は瞼をゆっくり閉じて彼の行為を受け入れた。

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