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「あんまり俺を煽るな」 「え?」  どこか苦しげに眉根を寄せ、そう告げてくる悠哉の瞳は、だけど全く威圧感や……怒気を感じさせなくて。 「触れてもいいか?」  悠哉がポソリと呟いた。 「キスだけで止めるつもりだった」と彼は言葉を続けるけれど、呆れられた訳じゃなかった事の方が嬉しかった。 「こんな……身体でも、良かったら……」 『汚い身体』と言いかけて、叶多は言葉をグッと飲み込む。『汚くない』と、何度も悠哉が自分に言ってくれたから。  こんな醜い傷跡を見ても『綺麗』と言ってくれたから。  ―― だからもう、自分に嘘を吐いて誤魔化すのは……。 「あっ」  既に露わになっていた肌にそっと大きな掌が触れ、鎖骨の辺りの火傷の痕を撫でるように移動した。 「本当に、いいのか?」  念を押すように尋ねる声に、掌で顔を覆いながらも叶多が頷き了を告げると、躊躇したように手を止めてから、悠哉がコクリと唾を飲み込む音がする。  そして――― 。 「俺は、お前……叶多…が、好きだ」  いつも淀みなく言葉を操る彼が珍しく言葉を詰まらせ、途切れ途切れに放った言葉に……叶多の胸は大きく脈打ち、肌理の整った白い肌が一瞬にして紅潮した。 「僕……は」  恐る恐る指の隙間から悠哉の顔を見上げると、照れたように頬の辺りがうっすら紅くなっている。  叶多自身、告白は勿論だけれど、初めて名前を呼ばれた事に、目眩を覚える程に高揚し、体中が粟立った。 「僕、僕も……貴方が……好き…です」  安易に答えを口に出すのは、止めたほうがいいと瞬には言われそうだが、形になってしまった以上……抑えることが適わない。  出会った頃は恐怖の対象でしかなかった筈なのに、気付けば自分の心の中の大きな部分を占めていた。 「それは……きっと思い違いだ。でも、それでも、いつか本当になればいいって……思う」  答えを導き出すと同時に、そう言葉を返されて……「優しいな」と、伸ばされた手がゆっくり頭を撫でていく。 「思い違いじゃ……ない」  彼が信じられないと言うのもよく分かる。当の叶多自身でさえ、自覚するのにずいぶん長い時間が掛かった。

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