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番外編1
*悠哉×叶多(大学生、同棲してます)*
「悠哉君……あつい」
「分かったから、ちょっと手ぇ離せ」
腕の中に居る恋人は、常なら絶対こんな甘えた声はださない。
「やだぁ、離したらどっか行っちゃうもん」
「……ったく」
本当にとんだ酔っ払いだ。
今まで一度も飲ませたことが無かったから……酔った叶多の変わりように、表情にこそ出しはしないが、悠哉はかなり驚いていた。
父の名代 で出席していたパーティーから帰っても、まだ叶多が居なかったから、多少は心配していたものの、珍しく、
『後輩とご飯を食べに行きたい』
との連絡を受け、
『楽しんで来い』
と理解のある恋人を演じただけに、少し遅くなったくらいで迎えに行くのも躊躇 われた。
(どこにいるかも知ってたし)
着替えを済ませて寛いでいると、少ししてからスマホが鳴り、叶多だと思って出ると、相手は後輩と名乗る男で、どこか申し訳なさそうに状況を説明された。
慌てて迎えに行った悠哉は男に謝罪と礼を告げ、フラフラになった叶多を背負ってマンションまで歩いてきたのだ。
「やっ」
ソファーの上へと叶多を降ろし、水を取りに行こうとすると、首の後ろへ抱きつく腕にギュッと力が込められる。
「この酔っぱらい。どれだけ飲んだんだ?」
「飲んでない……ウーロン茶だけ」
「烏龍茶でこんなに真っ赤になるか」
呆れたように告げた悠哉が、薄く開かれた唇にただ触れるだけのキスを落とすと、まるでもっとと強請るように舌をチロリと覗かせた。
「誘ってるのか?」
「ん……」
僅かに香るアルコール臭に、先ほど男が言っていた『間違えて飲んでしまったらしい』
という言葉は間違えじゃないと確信する。
(でも、まあ……)
振り払うことは容易だけれど、初めてのこの状況を……愉しもうという考えの方が、悠哉の心の大半を占めた。
「叶多、万歳しろ。脱がせてやるから」
「うん」
暑いんだろ? と囁きかけると、素直に答えた叶多はようやく悠哉の首から腕を離し、ゆっくりとその両手を上げる。
「ほら」
シャツを一気に脱がせてやると、白い身体のあちら此方に自分が残した痕があり、以前の傷は大分色素の沈着へと変わっていた。
「きもちいい。それ、もっと……」
胸の真ん中をサラリと撫でるとひんやりとして気持ちがいいのか、うっとりと目を細めた叶多が悠哉の手首を掴んでくる。
「お前、二度と人前で酒飲むな」
「だからぁ、お酒は飲んでない」
フラフラと身体を揺らし、唇を少し尖らせる様は、もはや誘っているようにしか悠哉の目には映らなかった。
「今日は相手が彼だったから、良かったけど……」
叶多と同じく線の細い、真面目そうな男だったが、男なんてどこでどう豹変するか分からない。
「叶多、お仕置きな」
「え? なんでぇ? 意味わから……あっ」
フワフワと笑みを浮かべながらも、言い返してくる叶多の臍の窪みへ指を差し込めば……ピクリと身体は跳ね上がるけれど、まだ夢心地の表情だ。
「俺以外に、そんな顔、見せたらダメだろ」
意地悪な笑みを唇に浮かべ、円を描くように胸を撫でるが、どうやら相当危機感が薄くなってしまっているらしく、
「わからな……気持ち……いい」
と、あえかな吐息が漏らした叶多は、上目遣いに悠哉を見詰て「もっと」と小さく囁いた。
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