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番外編3

*佐野×射矢(遠恋のお話)*  今日は今年一番の寒さだと朝見たニュースで言っていた。  道行く人も心なしか、肩を(すく)めているように見える。 (でも……)    色とりどりのイルミネーションに彩られている街を眺め、誰もがとても幸せそうだという感想を(るい)は持った。 「……寒い」  マフラーに顎を埋めて小さく呟きながら、ポケットに入れた指を握る。折角叶多が用意してくれた手袋を、寮に忘れてしまった事が今日一番の類のミスだ。 (マフラーと一緒に、置いておいた筈なのに)  常ならば絶対忘れないのに、気持ちが浮わついてしまっていたのか、出てくる時に気づかなかった。 (あと、一時間)  チラリと広場の時計を見ると、ちょうど午後五時を示している。待ち合わせの時間は六時と言われているから、まだ待ち人は姿を見せない。  着いたらLINEを寄越(よこ)すようにと言われてはいるけれど、早過ぎると迷惑かもしれないなどど考えるうち、結局スマホをポケットの中で握りしめたまま待つことにした。 (もうすぐ……会える)  待っている佐野智也とは、夏休みに会ったきりだから四ヶ月ぶりの再会となる。  先に高校を卒業した彼は、東京にある大学へと進学した。  距離が離れているせいもあるが、長期休暇以外の休みは、正式な理由無しには外出してはならない決まりがあるから、類と智也が会えるのは、年にたった数回だけ。 (次の休み、春休みには卒業だから、そうしたら……) 「何でLINEしてこないの?」 「っ!」  俯き加減で一人考えに(ふけ)っていると、頭上から声が降ってきて、弾かれたように顔を上げると、会いたかった彼がそこにいた。 「佐野さん……こ、こんばんは」 「はい、こんばんは」  緊張のあまりどもる類を、からかうように答えた智也が、爽やかな笑みを唇に乗せて「行くよ」と短く告げてくる。 「類、手ぇ出して」 「あ……はい」  言われて素直に手を差し出すと、自然な動作で彼に握られ、手を繋ぐ格好となる。 「冷たいな。どんだけ待ってた?」 「一時間くらい……です」  本当はもっと待っていたけれど、咄嗟に類は嘘を吐いた。久しぶりに会えたというのに、彼に呆れられたくはない。 「そうか」  短く答えた智也はそのまま類の少し前を歩く。  繋いだ手はそのままだから、周りから……『男同士でおかしい』などと思われるのではないかと思うが、離したくないという気持ちが上回ったから、黙って彼に従った。

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