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 ***  類の服装は細身のパンツにモッズコート、ブーツを履いて首にはマフラーを巻いたカジュアルな格好だ。  華奢な上に、体のラインの分かりづらい服装だから、他人から見れば女性のように見えなくもないと智也は思う。 (言ったら、怒るかもしれないけど)  智也自身、他人の目などは気にもならない些細な事だが、類の気持ちが手に取るように分かるから、そんな事で悩んだ挙げ句、結果手を離そうとしない彼が愛しくてたまらなかった。 「また、“佐野さん”に逆戻り?」  振り返って質問をすると、目が合った途端頬が薄紅(うすべに)に染まっていく。 「そんなわけじゃ……でも、少し馴れなくて」  まだ学園に居た頃は、どんなふざけた質問をしても、表情一つ変える事無く淡々と答えていた。  そんな彼の、微妙な感情の機微(きび)を掬い取る作業も嫌ではなかったが、今の類はそれ以上に智也を惹きつける。 「夏にもあれだけ教えたのに、類はすぐ俺に馴れなくなるね。次に会うまで忘れないように、今日から沢山勉強しないと」 「べ、勉強……なら、出来る方だと思います」 「バーカ、そんな真っ赤な顔して、とぼけても無駄。ホント、これで年上とか反則だろ」  立ち止まった智也が体を屈めて頬へとキスを落とすと、これにはかなり驚いたようで、類は瞳を見開いた。  表通りでは無いけれど、周りには人が沢山居る。そんな中でキスするなんて、きっと類にはあり得ないことだ。 「なっ……なにをっ!」 「まずは、冷え切った体を暖めなきゃな」  動揺する類の掌を握り直して歩きだす。  多分、三時間は待っていた彼が、風邪を悪化させるような事になっては時間が勿体ない。 「どこに、行くんですか?」 「ん? イイところ」  待ち合わせ場所が智也の住むマンション付近じゃなかったから、きっと不思議になったのだろうが、折角のクリスマスだから……特別な夜にしたいと思った。 (柄でも無いけど)  イルミネーションをキョロキョロと見ながら、「綺麗」と呟き微笑む類は、これまでまともにクリスマスを誰かと過ごしたことが無い。  学園では、類の立場や真面目な気質をおもんばかって、互いの部屋を訪れたとしても、泊まるような真似は一度もしなかった。  だから、今日は尚更楽しませたいと思ったのだ。

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