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「……ゆうや……くん」
「ああ、ここにいる」
彼の言葉が導くとおり、吐きだす事へと集中すれば、混乱していた頭の中が少しずつクリアになってきた。だけど、先ほど見ていたリアルな夢は、こびり付いたように離れてくれない。
――また……やってしまった。
叶多にとっての転機となった夏休みが過ぎ去ったあと、毎日とまではいかないものの、こうして夜中うなされては、彼を起こしてしまうことが日に日に多くなっていた。
「……ありがとう、もう……大丈夫。僕、水飲んでくるから、悠哉君は寝て」
どう考えても迷惑だろうと思うから、なるべく早く安心させて眠ってもらおうと考える。
だから、落ち着かない気持ちのままで表面だけを取り繕い、叶多は悠哉にそう告げるけれど、いつもは黙って頷く彼が、今日は眉間へと皺を刻んだ。
「俺じゃ頼りにならない?」
紡がれたのは意外な言葉。彼がそんなことを言い出すなんて、正直思っていなかった。
だっていつもは水を飲みながら気持ちを静め、それから部屋へと戻った時には大抵寝息を立てていたのだ。
――いや、違う、そうじゃない。たぶん、本当は……。
本当は、起きて待っていてくれているのかもしれないと……感じることもあったのだけれど、彼の負担になりたくないから、そっとベッドへ戻ったあとで、体を優しく抱きしめられても、無意識のうちの行動なのだと思い込もうとしてしまった。
「ちがう、そんなことは……」
「悪い。これじゃ責めてるみたいだな。カナが俺に気を使って、なんでもないふりをしてることは分かってる。だから、こっちも気付かないふりしなきゃダメだって思ってたんだけど」
まだ薄暗い部屋の中、自嘲気味な笑みを浮かべた悠哉の薄い唇が、叶多の顔へと近づいてくる。
「……ん」
「俺には……カナの悪い夢を消してやることはできない。でも、うなされたカナを起こすことと、抱きしめることは出来るから……」
だから、もっと自分を頼って欲しいと真摯な声で囁かれ、触れるだけの優しいキスが顔中へと落とされた。
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