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「確かに射矢君……前と少し変わったね」
気を遣わないで欲しいと言っても、きっと無理だと思うから、こんな時、叶多はそれに気付かぬふりをしてやり過ごす。
そういえば、悠哉と唯人が中心となったゲームと呼ばれる勝負の最中、
『智也がいるから言うことを聞いてる』
と、唯人は類に言っていた。
ならば、時折なにかの理由をつけて、佐野を迎えにやってくるのも頷ける。
「あのさ……さっきの話なんだけど、須賀となにもないってホント?」
「え? あ……うん」
ぼんやり考え事をしていると、瞬が話を続けてきたから、つい流れのままそれに答えれば「マジで!?」と言われて我に返った。
「ちがう、そうじゃなくて……」
「違わないよね。叶多は恥ずかしいとか思ってるのかもしれないけど、何か悩んでるなら、どんなことでも、俺にくらいは相談してよ」
先ほどまでとは打って変わった真剣な彼の表情に、じんわりと胸の奥の方から温かなものがこみ上げる。
「……ありがとう」
「ゆっくりでいいから」
そっと背中をさする掌から、心配している彼の思いが痛いくらいに伝わって……多少迷いはしたものの、結局叶多はポツリポツリと悩みを言葉にし始めた。
***
「おはよう。気分はどうだい?」
「……おはようございます。ごめんなさい、僕、また……」
目覚めた時、側にいたのは、須賀家専属の医師であり、夏以降は叶多の主治医をしてくれている和希だった。
すぐに状況を理解した叶多が謝罪の言葉を口にすると、優しげな笑みを浮かべた和希は、ゆっくりと首を横へと振る。
「病気を治すのが俺の仕事だ。だから、叶多君が謝る必要はないんだよ」
「でも……」
「いいかい、叶多君。眠れるってことは、体が元気になろうとしている証拠だから、気に病むことは何もない」
ベッドの上へと横たわっている叶多の髪の毛を撫でながら、
「それに、だいぶ時間が短くなってる」
と励ますように告げてくるけれど、一刻も早く元の生活を取り戻したいと願う叶多は、焦りと不安がない交ぜになったような感情に支配された。
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