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 今だって、周りのみんなが気を使ってくれているのに、これ以上、困らせるようなことをしては申し訳ない。 「空が青いね」  すると、重たい空気を誤魔化すように和希が話題を変えてきた。それが自分の為と分かるから叶多は笑みを唇に浮かべる。 「もう少し眠るかい?」 「いえ、もう起きます」  まだ眠気は残っているが、もうじき悠哉が帰ってくるから、眠ってばかりじゃ心配させると思った叶多がそう答えると、「無理するなよ」と告げた和希が髪をふわりと撫でてきた。  *** 「ただいま」 「おかえりなさい」  学校から急いで帰り、悠哉が部屋のドアを開くと、ラフな格好をしている叶多が、対面キッチンの向こう側に立ち夕食を作り始めていた。   うれしそうに微笑む顔は、悠哉をホッとさせるけれど……日々やつれていくその姿に、胸がツキリと痛みを覚える。  本人には無理をしている自覚が無いから尚更に、どうすれば彼を元気な姿に戻せるのかが分からなかった。 ――和希さんは、時間が解決するから、見守れって言ってたけど……。 「今日はカレー?」 「うん。よかったら、瞬達も呼んで一緒に食べない?」 「いいな。そうしよう」  答えながら、スマートフォンを取り出した悠哉は伊東へ誘いのメールを送ると、ダイニングテーブルの椅子へ座って叶多を眺めていたが、頬へと風が当たるのを感じで視線を窓の外へと移す。  ベランダへ出る大きな窓は、今は開かれて風が吹き込んでいるけれど、以前は常に締め切っており、叶多が再び逃げ出さないよう南京錠までかけていた。 ――カナは……ここがいいって言ったけど……。  今、2人が暮らしているのは、寮の悠哉の個室である。  生徒会役員とその従者だけが入れるフロアは、一般生徒の部屋とは違い、高級マンションみたいな造りで、学食があるから要らないはずのキッチンまでが完備されていた。  悠哉の父との約束で、夏休みが終わった当初は会う時間までも制限されていたのだが、新学期が始まってすぐに叶多が体調を崩したために、和希の強い進言もあって、今の形になっている。

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