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 ――これで、本当に良かったのだろうか。  季節はすでに秋から冬へと向かっており、体の傷は癒えたものの、夜毎(よごと)苦しむ叶多の姿に悠哉も不安になっていた。  そして、自分も散々叶多を酷く扱ってきた自覚があるから、抱きしめることやキスは出来ても、それ以上には進めずにいる。  叶多自身が望みさえすれば、すぐにでも身体を繋げたいけれど、今の彼には(こく)なことだと分かっているから、下手な気遣いをさせないため、欲情を表面には出さぬよう気をつけていた。 「来るって」 「そう。良かった」  考えに耽っているとスマートフォンが音を立て、着信メールを確認してからそう伝えれば、ホッとしたように叶多は答える。  そんな姿を見てしまうと、もしかしたら、自分と二人でいることが、彼の負担になってしまっているのでは? などと、ネガティブなことを思ってしまうが、そんな思考を断ち切るように悠哉は椅子から立ち上がり、 「手伝うよ」 と、笑顔で告げてから、叶多のいるキッチンへと移動した。  それから叶多の指示に従い、皿を並べたり味見をしたりしていると、来客を知らせるインターフォンが部屋へと響く。  瞬と圭吾が映っていたから、出迎えに行き扉を開けば、そこにいたのが二人だけでは無かったから、正直かなり驚いた。 「なんでお前等がいる」 「さあ、どうしてでしょう」 「ごめん悠哉君、射矢君と佐野君も僕がさっきメールで呼んだんだ。沢山いた方が、楽しいかと思って」  聞こえてきた叶多の声で、状況はすぐに理解できたが、もやもやとした黒い感情が心の奥からわきだした。 「っていうわけで、お邪魔します」  すると、口元に笑みをたたえた智也が、すれ違いざま小さな声で、 「ヤキモチはカッコ悪いよ」 などと馬鹿にしたように言うものだから、頭に血が上りそうになるのを堪えることに苦心する。  異母兄である智也の言葉は図星だった。  自分の預かり知らない所で、智也と叶多が連絡先を交換したと分かっただけで、嫉妬心がこみ上げる。 ――ダメだ。少し冷静にならないと……。   以前、叶多にとっての安定剤は自分なのだと和希に言われた。だから、叶多にとって安心できる存在になろうと決めたのだ。  ――だけど……。  “優しくて、物分かりのいい恋人”でいることはかなり難しく、部屋へと戻って彼らと食事をしている間、表面こそは取り繕ったが、智也と話す叶多の姿を見るだけで胸がギュッと痛んだ。

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