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『いい? 叶多。今、須賀は猛烈な嫉妬心と戦ってる筈だ。あとは叶多が――』
――ホントに、大丈夫なんだろうか?
瞬の真面目な表情と、芝居がかった言葉遣いに、少しの違和感を持ちはしたけれど、彼らも言うとおり、“自分が行動しなければ何も変わらない”という気持ちだけは、ずっと心に抱いていた。
だから叶多が動くのは、叶多自身の意志の現れだ。
「……カナ?」
そんな思いに突き動かされ、背後からゆるく腰を抱きしめて広い背中へと密着すれば、驚いたように体が強ばり、悠哉がこちらを向こうとする。
「このまま……このまま聞いて」
見つめ合えば、羞恥が募ってうまく言えなくなりそうだから、叶多が必死に懇願すると、「分かった」前を向き、低いけれども優しい声で答えた悠哉が頷いた。
「悠哉君……なにか怒ってる? 僕、なにか、悠哉君に悪いことした?」
「……してない。どうして?」
「だって、悠哉君……」
質問を質問で返され叶多は言葉に詰まってしまう。
きちんと話そうと決めたはずなのに、聞きたいことを口にすれば……浅ましいと思われそうで内心とても怖かった。
――だけど、ちゃんと言わないと。
声に出して伝えなければ、相手にとっては思っていないのと一緒だと、昔父親が言っていた。
だから、悠哉がどう受け止めようと、伝えなければならないと思う。
――大丈夫、きっと……分かってくれる。
心の中で意志を固めた叶多が口を開きかけた時、 「ごめん、嘘」の声が聞こえ、しがみつくように腰を抱きしめる叶多の手を、彼の掌が包みこんできた。
「……え?」
「怒ってるってほどじゃないが、正直嫉妬はした。智也と連絡を取り合ってるって俺は聞いてない」
「あ……それは……ごめんなさい」
違うのだ。それは瞬の計画の一部で、叶多は佐野と連絡先の交換などはしていない。だけど、この計画に乗った時点で責任は全て自分にあるから、叶多は素直に謝罪を紡ぎ、広い背中へと額をつけた。
「佐野や久世と一緒の方が、カナは楽なのかも知れない。けど……」
「ちが……あっ!」
そんなことはないのだと、伝えようとして口を開くが、突然強い力に押されて声は小さな悲鳴に変わる。
「悪いが、そこまで、物分かりのいい人間にはなれない」
「んっ……うぅっ」
一体なにが起こっているのか理解するのが遅れたが……やがて、視界一杯に映り込む顔、薄く開いた口腔内へと入り込んでくるザラリと濡れた感触に、体ごと振り向いた悠哉が、自分にキスをしているのだと理解した。
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