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荷ほどきを後回しにしてやることがある。ここに入学する手引きをしてくれた人への挨拶だ。 どうやら保健医として学園に勤めているらしく、春休み中の今でも居ることは確認済み。父親伝で挨拶に行くと連絡済みでもある。 校舎の下見も兼ねてちょうど良いから、今から行ってこよう。 仮カードをしっかり首から下げ、手に見取り図を持って部屋を出た。 「寮から10分だっけ。あの桜並木まで5分。そこからまた5分か……」 音楽でも聴いてればすぐ着きそう。そう思ってスマホに繋いでいたイヤホンを装着した。再生ボタンを押せば、バスの中で聴いていた曲の続きが流れ出す。アップテンポな卒業の歌だ。歌詞は大切な誰かからの卒業を歌っているけど、今の俺は、過去の自分から卒業したい気持ちで聴いている。 うん、この曲のように前向きな気持ちでいきたい。自然と視線が上向き、水色の空に桜が映る。 「どうせなら入学式に咲いたら良いのにな」 長い桜並木、どの蕾もまだ固く閉じている。満開になったら絵になるだろう。 そうして音楽を聴きつつ桜を見上げながら歩いていると校舎が見えてきた。普通のよくある学校に見える。ここも門があるが、通用口が開いていたのでそこから入った。 「しまった、土足厳禁だよな……?」 玄関に入ってから気づく、上靴を持ってくるべきだった。仕方ないので靴下のままで。

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