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「ええと、父から何か聞いているということですか?」 笑顔のままで返事はくれず、手招きされた。素直に近くまで寄ってみる。 「そうですね、たとえば」 「あ」 眼鏡を外されてしまった。 「君の目がとても綺麗だということ。……ああ、コンタクトを入れたんですか」 眼鏡が机に置かれて、すぐに返してもらえないことを悟る。更に前髪が横に流されて視界が開けた。じいっと至近距離で見つめられると、照れてしまう。 「茶色も似合っていますよ。わざとらしくなくて良い。そもそも君は、造形が美しい」 「あの」 口を挟もうとしたら指で物理的に封じられた。唇に押し当てられて。 「でもね、礼儀正しくて優しい子だとも聞いています。新しい生活が素晴らしいものになるように見守っているから、いつでもここへおいで」 ああ、この人は、経緯を知っている。その上で逃げ道を用意してくれているのだと分かった。 「ありがとうございます」 にこりと微笑んで、手は離れていった。 「君のお父さんは大学の先輩でね、お母さんのことも知っているから、君を甥っ子みたいに思っているのだけど、嫌じゃなければ叔父さんだと思って頼ってほしい」 「どちらかと言えばお兄さんみたいです」 「嬉しいな。僕アラサーだよ」 えぇ……若い。

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