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「さっき言ってたのってこの子?なんか聞いたイメージと違うなあ」
逆らえないと言ってたわりに先輩相手に敬語を使っていない同級生の彼。目に入った名札には蕗口(ふきぐち)と書かれている。脅されている感じでもないのに、なんでこんなことに手を貸すんだろう。
先輩の手が脇腹から肋の辺りを掴むように滑って、押しつぶされそうで怖いので本当に助けてほしい。と、すっと片手が軽くなった。
「……あーこれは……」
期待を裏切って前髪を除けられ、ずれた眼鏡を通さずしっかり目が合う。目が合っている。
「おいうるせーよ。気が散るから黙れ」
「さーせん」
……今は気にしている場合じゃない。それより、片手が解放され先輩の意識が逸れた今が逃げるチャンスだ。渾身の力で起き上がろうと自由な方の手を踏ん張った。瞬間。
どすん、と重い音が自分の腹から響いた。殴られた。
「うぐ……っ」
込み上げる吐き気と痛み。起き上がろうしていたことで腹筋に力が入っていた分、なんとか胃の中の物は抑え込める程度で済んだけれど、痛みで沈む。
「グズが。ちゃんと押さえとけ」
「うわ痛そ……」
さらりと前髪を戻してから、蕗口はまた俺の腕を押さえつけた。なんで戻したのか、気になるけれど、まず内臓が痛い。
「げほっ……」
「お前、全っ然趣味じゃねーけど、大人しくしてたら泣いてぐずぐずになるぐらいには気持ち良くしてやるよ」
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