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じ、じ、じ、ゆっくりと下ろされていくチャック。同時にベルトにも手が伸びる。飴玉でも転がすみたいに胸をつついていた舌が吸い付いて、か細い悲鳴に近い声が漏れた。 「ひっ……」 チャックが下り切る、ベルトが抜かれる、下着の縁を撫でてその中に侵入した手が、直に尻を揉んだ。今まで以上の危機感に鳥肌が止まらない。手足に力を込めるけれど当然のようにどうにもならなくて、愕然としてやめろと口を開きかける。おーい、と声をかけられた気がして頭上を見た。蕗口がにこにこと笑っている。 「もう大丈夫」 と口が動いた。 「え?」 「堰ー!!」 絶叫みたいに俺を呼ぶ声が、悲鳴みたいなドアを開ける音と押し入ってきた。この声は、と思うより先にその持ち主が振り返った先輩に掴みかかって、殴り飛ばす。 「無道(むどう)テメェ!!」 ノーガードで殴られた先輩が俺の上から転がって、足が自由になった。気づけばいつの間にか腕も解放されている。 上体を起こすと先輩に追撃しようとする様子があったので、慌てて相手の腕に抱きつくような格好で抑えた。情けないことに手にあまり力が入らなかったから。 「もう良いです、根津先輩……!」 「堰……!?お前……!?」 助けてくれたのはまた根津先輩だった。俺が止めたこと、そして俺の状態に2度驚いて言葉が詰まったみたい。確かに、ひどい有様だ。 「ちょっと殴られただけなんで」 「んなわけ……!」 「今先輩が殴り返してくれたのでもう良いです」

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