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「ありがとうございます」
逃げ場があるというのは心強い。いざとなれば素直に甘えたいと思う。「いざ」が無いのが一番なんだけれど。
返却は不要です、と渡されたシャツをお礼を言って受け取りさっそく羽織った。卒業生の残していったものだろうか、少し大きかった。
「助かります。ボタン見つかるかも分からないので」
正直なところボタンを付け直したとしても、不快な感覚が付いてしまった分また袖を通せるかといえば怪しいし、かといって買い直すのももったいない気がしていた。代わりがあるのなら心置きなく捨てられる。ついでに、先生の提案に甘えて元着ていたシャツを処分してもらうことにした。ボタンの無いそれを受け取った先生が立ち上がってベッドの脇に立つ。
「さて、では少し休んで行きなさい」
「え」
「え?」
ベッドの仕切りカーテンに手を添えた状態で振り返る先生。そう来るとは思わなかった。体の震えはおさまっているし、腹も時間が経てば引く程度の痛みで、横になるほどではないのだけど。
「……戻るつもりですか?」
黙って頷く。保健室に沈黙が下りる。怒っているというより、呆れているというより、どうしようかと考えている沈黙。
やがて健助が口を開いた。
「なら、一緒に行く」
「でも怪我か具合が悪いんじゃ?」
「俺のは大したことない」
良いですよね?フードの奥から視線で訴える健助。先生が彼と俺とを交互に見て、諦めたように長く唸った。
「……まあ良いでしょう。2人とも無茶はしないように。無茶するぐらいならリタイアすること。良いね?」
「はい」
「分かりました」
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