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「人の気配ねーけどなー」 「いやさっき音がしたんだって」 警察側の先輩の声とドアが開く音を、潜り込んだ長机の下で息を潜めて聞く。照明のスイッチを押したらしく、暗かった室内が照らされた。明るくなったら見つかる確率が上がるというのに、健助は慌てる様子もなくさっき乱れた俺の髪を手で梳いている。 ぱっ、と今付いたばかりの照明がまた消えたと思ったら先輩たちの言い合う声。 「おい、何してんだよ」 「お前さあ、本当は音なんて聞こえなかったんじゃないの?誘ってんでしょ?」 「は、はあ?」 探しに来る様子も無く何を言ってるんだ?と思っていたら健助に抱き込まれる形で両耳を塞がれた。 「ちょ、おい、こんなとこで……んっ」 「誰も居ねーし来ねーよ」 声は聞こえにくくなったが、代わりにがたがたと机がぶつかるような音が響いてくる。大丈夫なのかこれ?様子を見に行った方が良いのでは。いや、罠かな?小声で健助に声をかけて見る。 「健助」 「しーっ。俺の心音でも、聞いてて」 やっぱり罠ってことかな?心音聞いてると眠くなってしまうんだけれど。同じリズムで背中も撫でられて、まるで寝かしつけようとされているようだ。 異音は次第に遠くに感じ、心音と2人分の呼吸音と、2人分の体温が心地よくて体が沈み込んでいく。瞼が落ちる。

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