70 / 265

51

「大丈夫、そのまま走って」 相変わらず焦りを見せない健助に促されて階段を降りきる。待ってましたと目の前に見覚えのない先輩が立ちはだかった。 「ゲームオーバーだな。まあお前たちはよく頑張ったよ。もう残り少ないのにさ」 乱暴はしないから大人しく捕まれ、とじりじり上下から距離を詰められ壁に追い込まれていく。 俺か健助か、最悪どちらかが逃げられれば良い。囮になろうと決意した瞬間健助に肩を引かれ、挟み込むように同時に伸びた先輩たちの手を上手く避けることができた。そのまま壁に寄っていたことでできた反対側の空間から前方の先輩を抜き去ろうと踏み出したところを、即座に体を捻って向こうも反応してくる。しかし健助が俺の肩を軽く押して上体を下げさせ、それを流した。ここまで2秒。避ける自信があるから焦っていなかったのか。 「走れ!」 俺はそのまま前方に、健助は体勢を崩した先輩を飛び越えて抜ける。くそ、突破された!先輩の悔しそうな声を背に玄関を飛び出した。ただそこにも待ち構える警察勢。もしかしたら情報が回っているのかもしれない。連絡先の交換など不十分な1年生はこの点でも不利だった。 5、6人集まって来ている中味方は……分からない。先生はともかく、先輩は挨拶した人でさえ役職を持っているのか知らないことがほとんどだ。例えば野中先輩とか(部長とかかな?)。目印でも付けていてくれると良いのだけれど、残念ながら無いようで。 「抜けられる?これ」 「ちょっと厳しいだろうな」 ここでタイミングよく味方が現れるなんて、物語でもないのに期待してしまう。

ともだちにシェアしよう!