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自室に帰ると眼鏡を机に置き、上着を脱いで二段ベッドの下段に半身だけ倒れ込む。深く長いため息が出て、疲れを実感した。 良い出会いもあり良くない出会いもあった。懸念も増えた。構造は身をもって理解した。色んな人に心配をかけてしまった。立ち回り方があれで良かったのかは疑問だ。悪くはなかったと思いたい。 「すごくねむい……」 コンタクトを外して眠ってしまおうか。と、上体を起こしたらちょうどドアが開く音がした。健助が帰ってきたらしい。 「侑哉」 「居るよ、おかえり」 アコーディオンドアを開けて良いか、ノックでの確認に、どうぞ、と返す。様子を窺うようにそろそろと開けられていくのが、彼の優しさを感じる。 「大丈夫か?」 「うん、少し疲れただけ」 ベッドの枠に背を預けて出迎えると、健助は真っ直ぐ目の前に来てしゃがみ込む。コンタクト外す前で良かった。 「そうか、飯は?」 「食欲なくて」 目の下を指でなぞられる。既視感を覚えるとともに、泣いていないか心配しているんだなと分かった。出会いが出会いなだけに泣き虫と思われているのかもしれない。あれは眠っていたから不可抗力なんだけれど。 「そうか……眠るか?」 正直すごく、ねむい。健助と会話したら余計に眠気が増したようで、今にもまぶたが落ちそう。なのにそんな様子に気づいて腰を上げた健助を、スラックスを掴んで引き止めていた。 「侑哉?どうした?」 「ごめん、少しだけ、胸貸して……」 再びしゃがんだ健助の返事を待たずにふらふらと倒れ込む。 「じゅっぷんだけ……」 背中に手が回った感触を最後に、意識がまどろんでいく。 ああ、長い半日だった……。 「おやすみ」

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