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キャンプの話題が出てからというもの、毎日桐嶋が3組の同室者から得た情報を教えてくれるようになった。おかげで交通手段、行き場所、内容など自分のクラスで議題に上がるより先に知れてしまう。例えば交通手段だと、バス3台を使うのでクラスごとの座席ではないらしいということとか。 「なあコンセンいつキャンプの話すんの?」 授業やホームルーム後はすぐに教室を出る金剛先生が珍しく残っていたところに、痺れを切らした桐嶋が話しかけた。あだ名に対してか質問内容に対してか、先生は顔をしかめる。 「キャンプだあ?」 なんだっけ、と5列目のこの席にも聞こえたけれど……なるほど忘れていたんだな。斜め上を見て考えても思い出せなかったらしく、教科書など重ねた下から手帳を抜き、ぱらぱらとめくっている。 「あー……ああ、キャンプ、キャンプね」 「先生忘れてたろ」 桐嶋のうろんげな顔を初めて見たけどこんな顔できるんだ、とちょっと新鮮。先生も驚いたのか口が引きつってるみたいだ。ぱたんと空気を変えるように手帳を閉じた。 「週末決めます」 忘れてたことには触れず、先生は日取りだけ伝えて手帳を戻すとさっと教室を出て行く。「言質取ったぞー!」と、恐らくわざと外まで聞こえる大きい声で桐嶋が叫んだので、たまたま前を通った生徒がびっくりしていてちょっとかわいそうだった。 相変わらずよく通る声だな、と感心していると親指を立ててきたので同じように返しておいた。

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